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『土の中の子供』中村文則著ー私は土の中で生まれたので親はいません

作家中村文規の作品は『掏摸』、『教壇X』を読み、『土の中の子供』は芥川賞受賞作で3冊目になります。

中村文則が書く作品はいずれもがとても暗い内容ですが、読みにくいことはなく、その暗さの内面を読者に提示しながら書かれているので、どこか共感を得ることが出来引き込まれるように読ませるような文体になっています。

2005年に発売された本ですが、現在社会問題となっている子供の虐待をテーマに書いているので、考えさせられることが多い内容になっています。

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『土の中の子供』のあらすじと感想

親を知らない子供がたらい回しにされたあげく、物心ついたときには日常的に暴力を受けながら8歳まで育ち、暴力がなくなったときには、食べ物も与えられずに山奥に埋められます。

意識が希薄になりそうな中で、体の底から叫び声を上げて、私は誰の思い通りにもならない。私は生きるのだと土をはねのけてたちあります。

土から生まれた私は施設に入り成人して自分の力で生きることを選びます。

しかし、恐怖に感情が乱され続けたため、恐怖が癖のように、血肉のように身体に染みついている私は意識の外で、恐怖を求めているようなところがあります。

『土の中の子供』のあらすじ

私は公園の脇の自動販売機の前でたむろしていた、数人のまえにたばこの吸い殻を投げつけたために彼らに、死ぬのではないかと思うほどの暴行を受けるところから物語は始まります。

顔が腫れ上がって帰った私を一緒に暮らしている、白湯子はアルコールの匂いをさせて「喧嘩でもしたの?」と聞いてきました。

白湯子も複雑な家庭に育ち、親を軽蔑していたが、自分が母親と同じようなことをしてしまうことにげんなりし、変えようと思っても逆に似てくるといいます。

親を知らない私は8歳まで部屋にとし込められ、毎日暴力を振るわれて育ったが、誰かにかまってほしかったという。彼ら夫婦にはとても愛らしい赤ちゃんがいたので、赤ちゃんに危害を加えることを恐れていたようだった。

その赤ちゃんを見て「差」ということを知った。しかしそれは事実であり、変わることなどあり得ないと思うことになります。

暴力はエスカレートして、掃除機の棒やアイロンなどでも打つようになったとき、泣くことを忘れていた私は初めて泣きました。言葉を失い、声も失っていました。

私の人生はそこから始まっていて、記憶の中で忘れることの出来ない濃密のものになっています。

その後、暴力は少なくなり放置されるようになりました。極度の空腹に激しい腹痛が伴い、汗が出ず、上昇続ける異常な熱に体が覆われると言うことを初めて知りました。

その頃、誰かに引き取られる話がいたようで、彼らのそばに座ってカレーライスを食べろと言われたが、ものを食べないで弱っていた私は食べることが出来ず、殴られ意識を失っていました。

気がついたときに、シャベルで土をかけられていたようで、鼻や口の中に土が入り、咳をしたいという感情を抑えただけでした。

土はやわらかく空腹も恐怖もなく睡魔がやってきて、これで終わるのだ、と思った。世界は最後には、自分に対して優しかったのだと思いました。

しかし、地上に出て考えなければないのではないだろうかと思い、必死に土を堀りあげ地上に出ました。どこまで歩いても林の中で、大きな野犬にであった時、絶望をかんじました。

だがそのとき、大きな感情が私の中で動いた。それは自分に似つかわしくない、凶暴な、荒々しい力のうずのようだった。突然芽生えたそのうねりは、驚いている私を凌駕するようにすべてを支配し、気がつくと声を失っていたはずの私は、体の底から噴き出るような叫び声を上げていた。・・・・・・犬の向こう側にあるもの、私を痛めつけた彼らの、さらに向こう側にあるもの、・・・・力のないものに対し、圧倒的な力を行使しようとする、すべての存在に対して私は叫んでいた。私は、生きるのだ。お前らの思い通りに、なってたまるか。言うことを聞くつもりはない。私は、自由に、自分に降りかかるすべての障害を、私の手で叩き潰してやるのだ。

私は木の棒を握りしめ、ありったけの力を込めて、泣き声とも、威嚇の声とも区別のつかない叫び声をあげながらあげながら犬に向かって飛びかかっていました。

犬が逃げた後、かなり歩いた後に散策に来ていた夫婦に出会い、病院に運び込まれました。

彼らが現れて威嚇したが、すべて私が話した後だったので、刑事が来て逮捕され、新聞の記事にになりました。

その後、ヤマネさんに連れられて、施設に行ったが、なかなかなじめませんでした。内向的に成長した私は本を読むようになり、この世界に何があるのかこの表象の奥にあるものが、一体何であるのかを探ろうとしていました。

施設が火事で焼けたとき、少しずつそろえた小説も燃えてしまいました。ヤマネさんはまた買えば良いと言ったが、声を上げて泣きました。

僕は27歳になりタクシー運転手になっていました。その頃、施設から連絡があり、父親が生きていることがわかったと言うことでしたが、同時に母親は死んでいたことも聞きました。

その連絡を受けてからの私の行動はよりむごくなっていきました。今までは何度か親のことを考えたことがあるが、今ではどうでもよくなっていたし、どうして今頃会いたいのか意味を見いだせませんでした。

今の私は働いている限り生きていくことも出来るし、子供の時に虐待を受けた時のことを考えると27歳まで生きたと言うことだけでもたいしたことではないかと思う。しかし、私の中では心の揺れが起きているのだろうと思う。

一緒に住んでいる白湯子も親の幻影に悩みながら生きています。私も親をどこかで意識しながら不安定になっていきます。

10階の古びたマンションを見つけ飛び降りようとしたがうまくいかず、家に帰ると、白湯子が階段から落ちて病院に運ばれたという電話を受けます。

病院に行き健康保険に入っていないことを確かめると入っていないという。私はお金の工面をするために施設のヤマネさんに保証人になってほしいと頼みにいきましが、ヤマネさんは貸してくれると言います。

そこで、彼が施設に来たときのことを思い出し、気を失ってしまします。その当時、私は精神科が言うところによると「精神的にここまで来ることは滅多にない、回復は難しいだろう」と「恐怖にここまでやられている症状は初めて見た。」いわれた。

───恐怖に感情が乱され続けたことで、恐怖が癖のように、血肉のように彼の身体に染みついている。今の彼のは、明らかに、恐怖を求めようとしています。自ら恐怖を求めるほど、病に蝕まれた状態にあります。───

───おまえはそういう人間だってことなんだよ。───

───おまえはくずなんだよ。───

こんな声が聞こえてきて気がつくとヤマネさんが私を抱いて「落ち着け、落ち着け」叫ばれ、「どうした、どうした?」と叫ばれていました。」

入園していたときにとても明るく、慰めてくれた、トクと言う子のことを聞くと、いろいろてあって20歳の頃に自殺したと言うことでした。

借りたお金を返すためにタクシー運転手の仕事を熱心にやっていたある日、タクシー強盗に遭い、命からがら車に乗って逃げたが、ガードレールにぶつけてしまいます。

偶然にも白湯子同じ病院に入院していたようで、気がついたとき、白湯子が部屋に入ってきて、なぜそのようなことをしたのかと叱られました。

ただ・・・・、優しいような気がしたんだ。これ以上ないほど、やられてしまえばさ、それ以上何もされることがないだろう?世界は、そのときには優しいんだ。驚くくらいに」

「それって、死ぬことじゃない。どこまでも相手するって言ったじゃない。それにあなたに力を振った人はもういないじゃない。」と言われたが私は本当だろうかと思い、泣きたくなっていました。

白湯子は、松葉杖で私のために買い物をし、看病してくれたと看護師から聞きました。

退院した頃、施設のヤマネさんと会うことになっていました。父親と一度は会っていた方が良いのではないかと言うことだったが、私は「親はいません。私は土の中から生まれたのですから」と言って会うことを拒否しました。

しかし、ヤマネさんに対してお世話になたことは一生忘れませんと言うことは告げて分かれてきました。

もう少し落ち着いたら、白湯子と、小旅行をして、赤ちゃんの墓参りをしようと思うのでした。

『土の中の子供』の感想

8歳まで暴力の中で育った私は施設に入りますが、施設の生活にもあまりなじめないままに、あの暴力と釣り合うような何かがあるのではないかと思っていまいた。

内向的に成長した私は本を読むようになり。この世界が何であるのか、この表象の奥にあるものが、一体何であるのかを探ろうとしていました。

これ以上ないと思うような暴力を受け、育っていった私は常に自分に対する暴力を受け入れながらも、他人に対しては暴力を振るわない思慮深い少年に育っていったことが救いになっています。

親を憎みながらも母親を最後まで看取った一緒に暮らす白湯子、親に似ていくことに嫌悪感を抱くことにも理解を示します。

親を知らない私は、子供の頃は思い描くことがあったものの、27歳になり一人で生きていけるようになってからは父親が会いたがっていることを知りましたが、会うことはしませんでした。

愛というのかわかりませんが、白湯子との生活はどこか優しさにあふれているようで、救いになっています。

傷つけられながら育った私に愛をくれた施設のヤマネさん、白湯子がまばゆく見えます。

私も人の親なので、このような暴力の中で育った子供でも、心の闇をっかえながらも一生懸命生きようとする力に救われました。

闇の中からかすかな光が見える、そんな読後感でした。

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