盲ろう者の東大教授(この当時は東大助教授)、福島智さんの妻の光成沢美さんが出会いから結婚しての2人の生活を書いています。
盲ろう者として初めて大学進学をした福島智さんは前向きに学問を究め、沢山の本を読んでご自分が一番なりたかったという大学教授、それも東大の教授になります。
耳も聞こえず、光さえ見えない福島智さんがどのように生きてきたかは、『ぼくの命は言葉と共にある』を読むとその人となりが分かるような気がします。
盲ろう者であっても人並み外れた知識と強い精神力をもつ夫との生活は楽しいことばかりではなかっただろうと思いました。
『指先で紡ぐ愛』あらすじと感想
作者が盲ろう者の夫との生活に疲れうつ状態になった時、”共依存”と言う言葉に出会い自分のしんどさの意味を見つけます。
盲ろう者である夫が世間から注目されるようになるにつれ、妻である作者のプレッシャーも大きくなるのだろうと思いながら読みました。
介助が必要な夫であれば、逃げようがありません。
盲ろう者であれば、指点字でしか言葉を返せませんから、言葉で返せない著者である妻は大きな葛藤を抱えることになったのだろうと思いました。
『指先で紡ぐ愛』あらすじ
出会いは手話通訳専門職員養成課程で学んでいたとき、福島智さんから ”重複障害” の講義を受けたことに始まります。
盲ろう者の福島さんはとてもユーモアのあり、宗教から哲学、シモネタ、パチンコ、落語に至るまでどんな相手とも対等に話すことが出来る話題の広さを持っていることだと書いています。
そんな彼に心を引かれていった著者は、母親の反対を押し切って結婚することになります。
食べて飲むことの大好きな彼は外食が大好きですが、作者はずっと指点字で話している訳ですから、かなり大変だったろうと思います。
しかし、何事にも前向きで、片付け下手でもの捜しばかりしている夫との生活は、ユーモア溢れていて読者に笑いを誘ってくれます。
著者が、夫が風呂に入ったと思って、ゴミ出しに行き戻ってくると、開けておいた鍵は閉められて、裸でビーちゃん、ビーちゃんと探し回っている夫が見えますが、耳も聞こえず、目も見えない夫に鍵を開けてほしいと伝えるすべがなく、ホテルに泊まることも考えながら、靴下を丸めて投げたのが偶然当たって、事なきを得たというような健常者同士では考えられないようなことを笑いを誘うタッチで描いています。
結婚当時は定職がなく、作者が働いていたようですが、福島さんが金沢大学助教授になり、仕事を止め金沢に引っ越し、指点字をする人がいなかったことから著者がすることになります。
朝から晩までの指点字でかなり疲れたと書いています。
その後、東京大学の助教授となりますが、著者の仕事もかなり増えて言ったことだろうと思います。
そして、著者も気づかないうちに、夫に尽くす妻になってしまい、”共依存” という状態になっていることを知り、このような関係は健全な大人の関係ではないと感じるのでした。
「光」と「音」を失って盲ろう者となったなった私は、自分が真空の宇宙空間に投げ出された ”裸の存在” なったように感じた。凍り付くような魂の ”寒さ” と自分の存在が ”消えてなくなってしまうような” 空虚な孤独感を私は体験した。
本文240ページ
そんな夫はいつか、居なくなってしまうのではないか。消えてしまうのではないか。
「そんな不安感を忘れるために、いつの間にか私は、夫に尽くす妻になっていた。」と書きます。
このようなときも普通の夫婦だったら距離を置くこともできるだろうに、自分の気持ちを訴えるには指点字を使うほかはない著者にはかなり辛いだろうと想像できます。
距離を置くことのできない関係のつらさは想像以上のように感じました。
『指先で紡ぐ愛』感想
若くない年齢となっている私は、何時までも夫に尽くす妻で居られないことを痛切に思われました。
立派な仕事をしている夫だからこそ、妻としての仕事はより大きな物となり、対等な人間としての結婚など難しいと思ってしまいます。
盲ろう者であることはとっても辛いことではあると思うが言葉を発することができ、それに対する返事を指点字でしなければならないのは、かなりきついだろうとは思いました。
私には想像を絶することだが、妻が体力が落ちで物を言うのも辛くなったときにどのようになるのだろうと感じてしまいます。
そのようなことから、不安な気持ちで読みおわすことになりました。