『アフターダーク』は2004年9月発行なので、『海辺のカフカ』の2年後の作品になります。
初期作品はぼくという1人称で書かれていたが、この作品の私たちはカメラアイの視点で人物に近づいたり遠のいたり、向こうにまわったり、上から覗いたりします。
著者はこの作品を書くことによって、一段上の文体を獲得したのかもしれません。
『アフターダーク』のあらすじと感想
深夜から朝までの数時間の出来事を書いて、これだけの深く沢山の人間を入れて、私たちに感動を与えてくれるのですから、村上春樹の文章力はさすがとしか言いようがありません。
カメラは「デニーズ」の店内で分厚い本を読んでいる浅井マリを捉え、そこに高橋が入って来る。2年前に会ったことを高橋は思い出し、マリの前に座り話し始めます。
そんな風に時間の経過と共にカメラは動き、眠っている姉のエリ、ラブホテル、すかいらーく、公園と回ってそれぞれの人達を描き出します。
『アフターダーク』のあらすじ
2年前に渡辺は友人が浅井エリ、マリ姉妹と会ったことが縁となって、家に帰らないと決めて真夜中の「デニーズ」で分厚い本を読んでいたマリと出会い距離を縮めていくことになります。
ラブホテルに19歳の中国人女性を連れてきた白川が生理になったからと怒り、暴力を加え、身ぐるみ剥いで逃げたことにより、中国語を話せるマリを高橋が紹介してようです。
マリはその女の子からいろいろ聞き出して、洋服を着せて、迎えに来た男と帰ります。
美人でアイドルのような姉エリがある日、眠るからと言って2ヶ月間眠り続けています。
真夜中に起きて置いておく食事をを食べ、パジャマも取り替えているようですが家の人は眠っているエリしか見たことがないようです。
カメラが捉えるエリは壁抜けをして白川の部屋のようなところに真夜中に来て朝には自宅の寝室に戻ります。そんな姉の隣の部屋にいるのが辛くなってマリは家を出てきたようです。
白川とエリのいる場所は村上作品では地下2階に当たるのかもしれな。そして、白川が置いていった中国人女性のケイタイから声「どこまで逃げてもてもね、わたしたちははあんたを捕まえる」という男の声がこの作品の核を成しているのだろう。
村上作品は比喩が多く入り組んでいて難解であるが、1作ごとに読者を一段と高い比喩の世界に連れて行ってくれるような気がします。
『アフターダーク』は、闇の時間帯の物語であるが、とっても温かいどこにでもいるような高橋とマリの物語であり、その周りで人間の温かさが際立ち、癒やしのものがたりでもあるのだと思わされます。
又、白雪姫のように眠り続けるエリの美しさ、そこに帰ってきたマリが潜り込み一緒に眠ってしまう最終章、温かい余韻のうちに読み終えることが出来ました。
『アフターダーク』を読み終えて
とても読みやすい文体と難しい内容であることが村上作品の特徴だと思いますが、作品を何冊も読み込んでいくと難解な部分はそのまま読んで理解できるところを理解すれば良いのだと思うことができるようになります。
そのように読むことが物語を読むことだと思えば、難しいことはないのかもしれません。
ある程度村上作品を読んだ後に、読み残した『アフターダーク』は読むことになったので、最初のわたしたちはから始まる、カメラアイには途惑ったものの、すんなり読むことが出来たためか、とても素晴らしい作品だと思いましたが、初めて読むことになったら途惑うかも知れないとは思いました。
「白雪姫」を彷彿とさせる物語のなかに美しいものと怖いものを織り交ぜ、夜の世界で優しい人たちの生き様を描き出して、読者に癒やしのようなものを与えてくれる不思議な読後感でした。