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『明暗』夏目漱石 著|人間のエゴイズムを書いた未完の小説

2016年4月6日

数冊の夏目漱石の作品を読んできたが、『明暗』は病没のため最後の小説となってしまった未完の作品です

今までに読んだ数冊の小説も近代文学を代表する作品であり、私の好きな作品でしたが『明暗』はそれまでの作品とは違った印象をもって読み始まました。

夫婦のありようを男性の眼と女性の眼から書かれており、それぞれにお互い対する不満やぎこちなさをお互いの目から述べて、その駆け引きは今に通じるものがあり心持ちの古さが感じられないと思いながら読みました。

名作と言われる作品は人間の奥深い心を探っているため、時代を超えても私たちに感動を与えます。

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『明暗』は未完でありながら人間のエコイムズと「則天去私」に則った作品

《天に則(のっと)り私を去るの意》夏目漱石が晩年に文学・人生の理想とした境地。自我の超克を自然の道理に従って生きることに求めようとしたもの。漱石自身の造語。

そくてん‐きょし【則天去私】 デジタル大辞泉の解説

主人公の津田由雄はそれまでの作品のように上流階級の東京帝大を卒業したインテリであり、自分も特別な人間だと思っているところがあり、妻のお延にも虚勢をはって良いところばかりを見せようとしているところがあります。

そして妻のお延はとてもしっかりした女性で津田に気に入られようと尽くすのですが、津田の心の中に踏み込めないものを感じています。

津田は軽蔑しているが叔父のところに出入りしていて旧知の仲である小林から、お延は結婚前に津田に何かあったのではないかと思えるような言葉をかけられ心配になりますが、聞きただすこともできずにいます。

津田が痔の手術をすることになりお金が必要になっても京都の実家からは送金してもらえず困っていたところ、津田が入院しているところに嫁いでいる妹のお秀がお金を持ってきてくれるが、津田が傲慢な態度を崩さないために兄妹けんかになります。

その喧嘩の最中にお延は義伯父の岡本からもらった小切手を持ってきて何とかことは収まり、お延と津田は心が通じ合ったようになります。

しかし次の日、小林が来て、そのあとに吉川夫人が来て、昔の恋人の清子が流産をして温泉で静養しているから行って見るように説き伏せます。

吉川夫人はお延のことをあまりよく思っていないので、そのプライドを逆なでしようと思っているのかもしれませんが、津田はなぜ自分を裏切って関と結婚してしまったかわからないことから忘れることができないでいるので会いに行くことにします。

不審がるお延を説き伏せて、小林が朝鮮に行くことにしたというので餞別を上げた次の日に病後の湯治のために温泉に出かけていきます。

雨の中を数時間かけて温泉に行くのですが、かなり広い温泉宿にはお客が少なく、温泉に入った後に迷ってしまったところに清子が出てきてばったり会うことになったが、清子は蒼白になり部屋に戻ってしまいました。

次の朝、宿の下女に吉川夫人から預かって来た果物籠に会いに行きたい旨のメモを入れて清子のところに届けて返事を聞いてきてほしいと頼むと待っているという返事を持ってきました。

下女の案内で清子に会うことができ、そこでたわいのない話をしているところでこの小説は未完のまま終わっています。

この未完の小説は様々な小説家などが続きを想像しているようですし、現に水村美苗の「続明暗」も出版されているようです。

『明暗』の読後感

未完とは言っても、ここまででもかなり長編になっていますので、結末は近いのではないかと思われますが、作者が亡くなってしまったので想像をするほかないのでしょうが、作者の中では結末は見えていたのではないかと思われます。

津田は軽蔑しながらも小林と懇意にしていますし、小林のいう言葉は誇張がありますがかなり的を得っていることから、漱石にとっての小林は大きな存在ではなかったかと思います。

うまい口に載せられて叔父の家に来た青年が何の見返りもないままに働かされている手紙を見せられ、また津田が餞別にあげたお金30円のうち10円をお金に困っている愿に10円を上げたのでした。

貧富の差をありありと見せつけられた津田は次のように思います。

今まで前の方ばかり眺めて、ここに世の中があるのだときめてかかかった彼は、急に後をふり返らせられた。そうして自分と反対な存在を注意すべく立ち止まった。するとああああこれも人間だという心持が、今日までまだ会った事もない幽霊のようなものを見つめているうちに起った。極めて縁の遠いものはかえって縁の近いものだったという事実が彼の眼前に現れた。

近代というこの時代の人たちは自分が置かれた立場以外のことは見当さえつかなかったのではないのでしょうか。

お金で困っている津田自身、親の仕送りが途絶えただけで困るような上流意識さえ崩すことができないような時代に住んでいることの現状を当たり前のように思っているのですから。

主役の津田がもちろんのこと妻のお延、妹のお秀、叔父、叔母、小林などそれぞれが見ている世の中や価値観をその人の眼を通して書き、世の中の多様さを私たち読者に問うています。

貧富の差、男女のことなどそれぞれの視点から書かれている『明暗』は人間のエコイムズを書いているのであり、夫婦と言えども人の心は自由にできないし、時間の流れとともに変わっていくものだということなのかもしれません。

時代を超えて私たちの心に訴えかけてくるこの小説は未完ながら秀悦であり、読み継がれる小説だと思いました。

そして、読者の年齢によっても読後感は変わるのではないかと思った時に、生きていく折々の時に読んでみる価値のある作品だと思いました。

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