フランスの政治を動かしたベストセラー寓話。
日本オリジナル編集版で絵:ヴィンセント・ギャロ、メッセージ:高橋哲哉、訳:藤本一勇 2003年12月8日に第1刷発行で、この本は2021年8月10日第29刷発行となっています。
ヴィンセント・ギャロの素敵な絵は日本語版のために書いたということです。
メッセージを入れても47ページ、本文は絵本のような文章で、29ページしかありません。
しかしその短い文章の中身は全体主義にと向かいかねない政治を動かした言葉がさりげないかたちで息づいています。
『茶色の朝』フランク・パヴロフ
日常のさりげない変化を見逃している人がかなり多いとわたしも感じています。
フランスでは軍服のいろが茶色で、茶色以外の犬や猫は飼ってはいけないというもっともな理屈を付けて科学者まで推奨したと書き始めています。
その後、新聞も政権の悪口を書く新聞は廃刊になり、政府寄りの新聞が残りました。
何も気にしない国民は茶色の犬や猫を飼い、すべて茶色の中で平穏に暮らしていたのですが、前に黒い犬を飼っていたと言うだけで友人は「国家反逆罪」扱いにされ、どこかに連れて行かれてしまったのです。
国民は政治の異常に気が付いたのですが遅かったようです。
真実を知ろうとしない国民は日本にも沢山いますし、これがフランスの話だと思って読むのはとても危険です。
もう、日本にもそのような気配が忍び寄っているかもしれません。
『茶色の朝』 メッセージ
やり過ごさないこと、
考え続けること
フランク・パヴロフ 『茶色の朝 』によせて
高橋哲哉
フランスの読者にとっては茶色はヒトラーに率いられたナチス党が初期に茶色(褐色)の色を制服として着用していたと言うことです。
「茶色は」ナチスを連想させるだけで無く今ではナチズム、ファシズム、全体主義などと親和性を持つ「極右」の人々を連想させる色になっていると言うことです。
1990年代に入り、東西冷戦が終結すると、それまでのイデオロギー対立が後退、民族、国民的アイデンティティを求める動きが強まり極右運動が各国に台頭しました。
ドイツのネオ・ナチ、フランスの国民戦線、オーストラリアの自由党、ベルギー、イタリア、オランダ、英国、スカンジナビア諸国でも同様な動きが見られるようになりました。
外国人排斥を唱える極右はユダヤ人排斥を唱え、不安をそらそうとしたナチスとうり二つなのです。西ヨーロッパ全体に極右運動が広がっていくのを見て、あるフランス人は『茶シャツのヨーロッパ」と名付けました。
ヨーロッパ全体が「茶色」に染まっていくかのように見えたのでしょう。
フランスとブルガリアの二重国籍を持つ フランク・パヴロフが 『茶色の朝』 を書いたのもフランスがやがて「茶色」に染まってしまうのではないかという危機感だと言います。
保守派の中に極右と協力関係を結ぼうというする動きが出てきた時に パヴロフは強い抗議の意思表示として『茶色の朝』 を出版したのです。
若い人に読んでもらいたいと思い印税を放棄し1ユーロの定価で出版しました。
2002年の決選投票で極右のルペン候補が決選投票をすることになった時、何をなすべきか考えたようと、多くの人が 『茶色の朝』 を読み、「極右にノンを!」の運動が盛り上がり、ルペン候補がは北北。 パヴロフ はベストセラー作家の仲間入りをしました。
普通の人は時の流れに身を委ねておけば良い、心地よいひとときを享受できる平和な国と思っている間に物事は静かに動いていきますが、人々はそれに慣れていくようです。
ファッシズムや全体主義は権力者が一方的に弾圧、恐怖政治を敷くことによるとは限りません。
「茶色にに守られた安心、それも悪くない」と思わせながら忍び寄ってくるようです。
現在の日本の社会が進んでいる道がとても怖いとわたしには感じられますが、国民の多くは気づかないばかりか、メディアが茶色に染まっていることさえ気が付いていない人が多いようです。
私たちは権力者が何をしようとしているのかしっかりと見て、手遅れになる前に、 『茶色の朝』 を読み、「極右にノンを!」の運動が盛り上がりるような社会になってほしいと思います。