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『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』 山田詠美著-死者とともに住む家

『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』は2013年2月15日、第1刷発行となっているので、数年前に書かれたものです。

『蝶々の纏足・風葬の教室 (新潮文庫)』が1997年の文庫本、『ぼくは勉強ができない (新潮文庫)』
は1996年の文庫本で最近読んでいるので、『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』は10数年後に書かれていることになります。

『風葬の教室』と『僕は勉強ができない』に雰囲気的には似た感じがあるのですが、「死」をテーマーにしているのは死と向き合いながら生きている年齢になった私には考えさせられる内容でした。

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『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』 山田詠美著-死者とともに住む家

離婚した母子の家族と死別した父と子の家族が同じ家に住むことになった澄川家は、母の子供の澄生と真澄、父の子供の創太、父と母の間に生まれた千恵たちの複雑な家族構成ながらも理想的家族でした。

山田詠美の美しい文章は本当に理想的な家族がこの世に中に存在することを、疑う余地もなく読ませてしまう不思議な力があります。

その理想の家族も千絵が生まれた5年後、母の美加にとっては特別な子供だった澄生が雷が落ちて死んでしまったのです。

それを機に母は魂が抜けたようになり、アルコール依存症となって入退院を繰り返すようになっていきました。

真澄も創太もそのようになってしまった特別な子だった澄生を失った母の空白は埋めることができないことを知りながらも、それぞれの思いを秘めて葛藤しながら成長していく心の内を美しく描いていきます。

いつまでたっても同じ笑顔のまま成長しない澄生は、この家になくてはならない主人公であり、それゆえに癒されることのない思いを抱いて成長していく真澄と創太、千絵には違った思いがありながら死を背負っていることについては同じでした。

表題のように、死をはらみながら私たち誰もが生きていますが、死はそれぞれに異なり、同じような死がないのでしょうが、癒えることのない悲しみを背負ってしまった母は自分の一部であると思うほどの澄生への愛の強さから抜け出せなかったのでしょう。

そしてその悲しみは家族全員が背負うものでありながら、子供という存在は一日一日成長して自分の生きる道を探さなければならない運命を担っています。

バブル崩壊で父の会社がうまくいかなくなり、経済的に大変になった時に長女だった真澄は、大学まである私立の一貫校でお金のかかる学校に通っていたのだが、大学に行かず経理を学ぶために専門学校に行くことにしました。

創太も受験勉強をして公立高校に行くことにしたが、千絵はいじめから逃げたくないと理由で大学まである私立の一貫校を変えないという選択をしました。

第一章の「私」では長女の真澄が家族の歴史を語り、第二章「おれ」では傷つきながら義母の愛を勝ち取ろうと努力してしている創太の痛まし心情を描いています。

第三章の「あたし」は小さかった時に抱いてもらった感触しか覚えていない澄生に支配されながらも千絵が成長していく過程を描いています。

「人生よ、私を楽しませてくれてありがとう。」と96歳で息を引き取る間際に母方の曾祖母が書き残したという額が、新しく住むことになった玄関に飾ってあった時に真澄はとても強い違和感を感じたのは何かを察知していたのかもしれません。

そんな幸せな人生なんかないのではないかというような・・・

私は年功序列のような、年上の係累の死以外は経験したことがないが、愛してやまない子供を亡くしてしまうという事を考えただけでも喪失感の大きさは図りしれないだろうと思いながらも、その悲しみの大きさは失ったものでないとわからないだろうというのが実感です。

死は突然にやってきて、それまでの生活を粉々にしていく。人生という大きな主題に挑み私たちに大きな思索をを残してくれた作者の力量を感じることのできる作品だと思いました。


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