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本・読書感想・映画

『ぼくは勉強ができない』 山田詠美著ー高校生の多感な価値感がはじける

2015年8月31日


17歳の高校生秀美が考える高校生活を「ぼくは勉強ができない」ほか8編の短編で書かれているが、短編としてではなく一つの小説として一気に読んでしましました。

高校生活を送っている方、ずっと昔に高校生だった私のようなものまでを引き付ける作品であるのは、高校生だったころにいつの間にか戻って読み進んでいるからかもしれません。

勉強しかできない居心地の悪い高校生活を送ってきた私には興味が尽きません。

勉強ができることしか取り柄がないと思いつつも、引っ込み思案で幼い私は大人びた友人の真似もできず、その引き換えのように本を読み本の中の世界に引き込まれることしかできませんでした。

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大人でもない、子供でもない17歳の時田秀美から見た同級生の多様さが面白い

父親がいない秀美は恋ばかりしている母と散歩で出会うおばあちゃんにしょっちゅう恋をしている、母の父(祖父)との3人暮らしです。

そのような環境で育っているので、ほかの同級生とはかなり違った価値観を持っています。

一人称で語る時田秀美の語り口はかなり昔の自分のその頃に引き戻されるような語り口で書かれています。

ぼくは勉強ができないより

しかしね。ぼくは思うのだ。どんなに成績が良くて、立派なことを言えるような人物でも、その人が変な顔で女にいもてなかったら随分と虚しいようなような気がする。女にもてないという事実の前には、どんなごたいそうな台詞も色あせるように思うのだ。

僕は勉強ができないより

この本を読めばわかると思うが変な顔とは、顔かたちを言っているのではなく、魅力的な顔という意味だと思いますし内面からにじみ出るような素敵な顔のことを言っているのだと感じました。

あなたの高尚な悩み

サッカー部の植草は時田秀美に「俺は時にお前のような単細胞をがうらやましくなる。俺は、考えることが多すぎて、永遠に動物としての快楽を味わい尽くせないかもしれない。頭の中が、高尚な知識の積み重ねで息詰まる思いだ。」と言ってのけるのです。

植草は付き合っていた黒川玲子が貧血で気分が悪くなった時も気付かずに得意そうに話をしていたという。

そりゃ、確かにはた迷惑な奴だ。女の子にナイトになれない奴が、いくら知識を身につけても無駄なことである。

あなたの高尚な悩みより


健全な精神

心身ともに健康なのは、もちろん良いことだが、無駄がなさ過ぎて退屈なんだと言いたいんだろう。時田、いいかい、世の中の仕組みは、心身ともに健康な人間にとても都合よくできている。

健康な人間ばかりだと、社会は滑らかに動いていくだろう。便利なことだ。でも、決してそうならないんだな。

世の中には生活するためだけなら、必要ないものがたくさんあるだろう。

いわゆる芸術というジャンルもそのひとつだな。無駄なことだよ。でも、その無駄がなかったら、どれほどつまらないことだろう。

そしてね、その無駄は、なんと不健全な精神から生まれることが多いのである。

健全な精神より

賢者の皮むき

川久保に山野舞子へ告白を頼まれた時田秀美が、反対に時田秀美が好きだと告白されて、自分は付き合っている人がいるし好みでないといった時、次のように山野舞子に言われて、自分も媚びを削らなければと思う。

「何よ、あんんただって、私と一緒じゃない。自然体っていう演技してるわよ。本当は自分だって、ほかの人とは違う何か特別なものを持ってるくせに。優越感をいっぱい抱えているくせに、ぼんやりしているふりして。あんたの方がずっと演技しているわよ。あんたはすごく自由にみえるわ。そこが私は好きだったの。ほかの子みたいにあれこれと枠を作ったりしないから。でもね。自由をよしとしてるのなんて、本当に自由でないからよ。私も同じ。あんたの言った通りよ。私は、人に愛される自分てのが好みなの。そういう演技を追及するのが大好きなの。中途半端に自由ぶってんじゃないわよ。

賢者の皮むきより

僕は勉強ができる

進路を決める時期がきても、時田秀美は自分がどうしたいのかわからなかった。

大人だったら誰もが経験しただろう、17歳の時田秀美に大人になった読者はその頃の自分の情けなさを感じ取るのかもしれない。

私は女子高ということもあって、面白くない高校生活を送ったのだが、私の知らないところではおませな子はこのようなことを繰り広げていたように感じています。

そして山田詠美があとがきで下記のように書いていることをかなり納得して読みました。

しかし、そう思いながらも、私の心は、ある時、高校生に戻る。

あの時と同じように、自分のつたなさを嫌悪したり、他愛ないことに嫌悪したりする。

そんな時、進歩のない自分に驚くと共に、人には決して進歩しない領域あるんものだと改めて思ったりする。

そこで気付くのだが、私はこの本で、決して進歩しない、そして進歩しなくても良い領域を書きたかったのだと思う。

大人になるとは、進歩することよりも、進歩させるべきではない領域を知ることだ。

あとがきより

そしてこの小説はそのように自覚した大人の方に読んでほしいと書いていますが、今現在高校生活を送っている方にも読んでほしいと思いました。

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