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『ねじまき鳥クロニクル』 村上春樹著|夫婦の深層とその周りの長大な物語

2016年2月24日

村上春樹がかなり人気のある作家であることは知っていましたが、なぜか最近まで読んだことがなかったことが不自然であることから読んでみようと思い立ち、今毎日のように読んでいます。

そして村上春樹の作品を読んでみようと思い、どのような作品があるのだろうと調べてみたら、「村上春樹、河合隼雄に会いにいく」という対談集があり、河合隼雄のファンである私は迷いなくそれを購入して読むことにしました。

その対談の中で語られるのは、「ねじまき鳥クロニクル」であり、夫婦の問題だったのでこの小説は読まなければならないだろうと思っていました。

しかしかなりの長編小説のようでしたので、旅行記「雨天炎天」や自身が「メモワール」のようなものだと書いている「走ることについて語るときに僕の語ること」を読み数冊の小説を読んだ後に『ねじまき鳥クロニクル』を読むことにしました。

エッセイや旅行記などで村上春樹の哲学とか考え方は少しわかったように思いましたが、そのあとに読んだ数冊の小説からはそれなりの良さを感じることはできましたが、「ねじまき鳥クロニクル」は、それらとはかなり視点が違っており人間の深層にかなり深く入ってきて久しぶりに心をかき乱されました。

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『ねじまき鳥クロニクル』行方不明になった妻を探す物語

この小説について、日本のユング派心理学者の第一人者の河合隼雄は、「村上春樹、河合隼雄に会いにいく」の中で次のように言っています。

ぼくはあれは夫婦のことを描いているすごい作品だ、というふうに読んでいますよ。

僕もいま、ある原稿で夫婦のことを書いているのですが、愛し合っているふたりが結婚したら幸せになるという、そんなばかな話はない。そんなことを思って結婚するから憂鬱になるんですね。何のために結婚して夫婦になるかと言ったら苦しむために、「井戸掘り」をするためなんだとというのが僕の結論なんです。

かなり長い小説で、1部と2部は割と簡単に読み終わりましたが、3部はかなり複雑で時間がかかりました。

1部と2部は1991年に執筆され、その後加筆と推敲を重ね、3部まで出版されるまでに4年半かかっているようで、かなり長い年月を費やして書かれたもののようです。

村上自身もそれまで夫婦の問題はあまりにも近く切実にあったので書けなかったが、『ねじまき鳥クロニクル』で夫婦というものを書けるようになったと言っています。

この小説はアメリカで執筆されたようですが、書いている時河合隼雄を尋ねたことが、「走ることについて語るときに僕の語ること」に書いてあることから、私の独断ですが河合隼雄の影響を少なからず受けたのではないかと思いながら(特に3部)、読みました。

村上春樹もフロイトやユングについての書物はたくさん読んでいると思いますが、日本のユング派の心理学者河合隼雄と出会ったことがこの小説に影響を与えているのではないかと、思いながら読むとかなり深い部分でこの小説を理解することができました。

この小説はかなり難解なところも多いですが、妻のクミコがある日突然帰ってこなくなり連絡も取れない状態になった後に妻を取り戻すために困難を乗り越えて頑張る僕の物語であり、その他大勢の人たちが出てきますが、それらは小説の中の血肉となり私たちに様々な問題を提起しているのだと思えば理解できる部分が多いことに気づきました。

この小説の始めは感じが似ているからというだけでつけられた「ワタヤ・ノボル」というネコがいなくなったことから始まりますが、猫探しをしていて出会った笠原メイは、17歳の高校生で事故を起こして学校にはいていなかったのだが、この小説の主要な部分を占める思慮(特に後半)を持った女の子です。

この女の子の隣が宮脇さんという空き家で、ここに住んだ人は不幸になったといういわくつきの屋敷であり、そこの枯れた井戸が僕の考える場所であり、その井戸から抜けてクミコを探し出すことになるのです。

猫を探すためにクミコは兄の綿谷昇に相談したようで、体の組成を見るという加納マルタに会うことになり、妹の加納クレタが姉の仕事を手伝っているということから水の採取にきてクレタと知り合うことになり僕とかかわりを持つことになります。

加納クレタという人物もかなり変わっていて、痛みを抱えながら生きていて自殺をしようと思って車に乗って事故を起こし、そのあとには痛みがなくなったが何も感じなくなり、綿谷昇に組成を汚されたが幸運にも致命的な傷を負うことはなかったといいます。

そして、妻の久美子の家の綿谷家は占いとか霊能力者を好んでいて、本田さんという霊能力者のところに行くようにと言われて結婚を許されたのですが、その本田さんが亡くなり形見を預かっているという間宮中尉(間宮徳太郎)が僕の家に形見の品を届けに来ました。

しかし、それは空っぽの箱で、本田さんは僕に間宮中尉と会わせたかったようです。

間宮中尉から、戦場で本田と一緒だったこと、追い詰められて逃げ場がなくなった時に井戸に入った間宮中尉を本田が助けてくれたこと、シベリア抑留のむごい体験などを聞かされることになります。

間宮中尉が訪ねてきた日、クミコは何も持たないで会社に行ったまま帰らなかったし、会社に電話をかけても出てきていないということで連絡が途絶えてしまいます。

そんな数日後、考えるために宮脇さんの空き家の井戸に入り、間宮中尉が井戸の中にいて生死を彷徨た光景を考えることになります。

僕は無意識の中で井戸抜けして、クミコを探しに行きますが探すことができないまま、井戸に戻ってくることになりますが、加納クレタによって助けられます。

髭を剃った後に大きなあざができていて、そのことは、この小説の中で大きな意味を持つことになるのですが、私にはどのように読み解いたらよいかわからないなりにも、クミコを探す手掛かりになる意味を持つことに繋がったことは理解できます。


赤坂ナツメグは満州の動物園で働いていた獣医の父を持っていてその父は僕と同じ場所にあざがあり、父を残して母と引き上げてきたのち結婚、話すことはできないがかなり有能な息子シナモンと暮らしています。

ナツメグはファッションデザイナーとして有名になるが、現在ではある「特殊な仕事」をしていて僕のあざのことがその仕事に役立つと思い、誘われることになります。

シナモンは小学校に入る前に、松の木の下に二人の人が来て何かを埋めていったのですがそれを掘り起こしてみると心臓だったという悪夢のようなものを見ましたが、これは祖父の獣医が中尉が軍隊と一緒に動物園にきて、心臓をえぐるように中国人を殺したことを見たことと関係を持っているように思われます。

祖父についてずっと母から聞いていた話の続きを賢くて先を見通すことのできるシナモンは感じ取ったのかもしれないと思いますが、その夢とも現実とも思えない真夜中の出来事の後に言葉を失ったのです。

僕は宮脇さんの空き家が壊され、井戸も埋められて出入りできなくなってしまっていたので、その井戸に入るためにその土地を購入する必要があり、何とか手に入れようと考えるようになります。

新宿のベンチで人の波を見ていた時、父と同じようなあざを持つ僕はナツメグに声をかけられ、「特殊な仕事」を手伝うことになり空き地に塀の高い秘密の屋敷を立てることができました。

ナツメグの「特殊な仕事」を手伝いながら、僕はクミコを探すために井戸に潜ることができるようになりました。

その頃、クミコの兄の綿谷昇は新潟の叔父が国会議員を止めることになりその地盤から国会議員に立候補して当選、将来有望なやり手として、週刊誌やテレビなどに出て人気の的になっていました。

子供のころから親に勉強をすることばかりを強いられ、甘やかされて育った綿谷昇は僕から見れば一貫した思想を持っておらず、人間としての失格者に見えるし、クミコの姉も彼のために自殺したのではないかと思うような人物で、クミコも嫌っていたのですが、兄の元で自由を失って帰ることができなくなっていると僕は思っています。

しかし底知れぬ性格の綿谷昇は、有能な秘書に怪しい屋敷で僕が何をしているか調べさせて、ある程度のことをつかみ、ナツメグはそれを知ってそこで「特殊な仕事」をすることを止めてしまいまいシナモンも来なくなってしまいました。

赤坂の事務所に電話をしても誰も出なかったし、行って呼び鈴を出しても誰も出ませんでした。

そして、5日間屋敷にはいかなかったが、6日目に行って井戸に降りた時バッドが亡くなっているのに気が付いたが気持ちを集中して、壁を抜けてクミコがいると思えるホテルに入ることができ、そこで綿谷昇が僕そっくりの人にバッドで殴られて意識不明になっているというニュースを見ることになります。

クミコがいると信じている208号室にもぐりこむことができて、クミコと話すことができバッドをもらい、そこに入って来た綿谷昇らしき人に切り付けられるが、バッドで殴っやっとの思いで壁抜けして井戸に戻って来た時には、枯れ井戸に水が湧き出していておぼれ死ぬところでした。

しかし、気が付いた時には、屋敷の中の仕事場で傷だらけの僕をナツメグが見守ってくれていて、傷はシナモンが縫ってくれたということでした。

シナモンははとても感の良い子なので僕が溺れかかっていることを知り、駆け付けて助けてくれたようでした。

そして、シナモンが猫のエサも毎日やってくれているとナツメグは言いました。

僕がバッドで殴ったと思っていた綿谷昇は長崎で大勢の人の前で話していた時、脳溢血で倒れ意識不明になっているという週刊誌を持ってきてくれた。

そして、その後の小さな記事に綿谷昇は意識不明のまま東京の医大病院に移るという記事も見せてくれました。

3日ぶりに洗面所まで歩いて行って髭を剃った時、顔のあざがないことに気が付きましたが、これは心の病であったら、病が治ったという証なのかもしれません。

そしてその夜シナモンが送っただろうパスワードをを使ってクミコがパソコンにメッセージを入れてきました。

そこにはクミコが今から兄の綿谷昇の入院している病院に行って命をつないでいる生命維持装置のプラグを抜いで警察に出頭して故意に兄を死なせたと告白するつもりだとメッセージを送って来たのです。

そして今までにおきた自分でもどうすることができなかった事柄が書いてありました。

『ねじまき鳥クロニクル』を読み終わって

太平洋戦争での残虐な殺人と戦争の名のもとに何をしても良いと考えているような人々の冷酷さと、その中で傷ついた心を持ったまま数十年を過ごした間宮中尉とその周りの人たち。

戦犯の罪で逮捕されると思って自決をしたエリートの大佐の屋敷に住んだ人たちに、その後呪いのように悪いことばかりが起こった宮脇さんの空き家。

満州動物園の獣医が見た、動物園内の中国人の殺害を、獣医の孫である感の良いシナモンが感じてしまったように話ができくなってしまったことなど歴史は終わることのないものを後世に残しているのです。

ここには忘れてしまってはいけないこと、生きるということは生易しいことではないこと、その生い立ちによって心を病んで生きている人の闇の世界、その闇の世界から去ってしまった妻を探し求める僕の懸命の努力を読み取ることができます。

そして妻であるクミコの兄の深い闇を持つ精神がクミコの姉を自殺に追いやり、今クミコをも飲み込んでいる汚らわしいものに向かって、クミコを取り戻すために命を懸けて戦うことになり、クミコに近づくことができ、壁抜けをしてきた枯れ井戸に水がわいていて、溺れ死ぬと思ったときにシナモンに助けられるのです。

私はシナモンの世界を見通すような力とやさしさに心が洗われ、その人間性に深い感動を覚えました。

この小説に3巻が無かったらこれほどまでの感動と読んだ後の癒しを感じることは難しかったのではないかと思いました。

そして言えることは社会の矛盾、個人的に考えていることの矛盾、あらゆる矛盾の中で不完全な私たちは生きているのではないかと思いました。

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