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『猫を抱いて象と泳ぐ』小川洋子著

著者の本を読むのは『博士の愛した数式』に次いで2冊目です。

博士の愛した数式』はどんな数字も数式に当てはめて話す、数論専門の元大学教授を書いています。『猫を抱いて象と泳ぐ』は「チェス」を愛してやまなかった少年の物語ですが、チェスが分からなくても問題なく読むことが出来ます。

私は「将棋」のようなものかと思いながら読みましたが、「チェス」は見たこともありません。

それでも、「チェス」を通して物語は進みますが、私には「チェス」を知らないことで、読書を妨げられることはありませんでした。

『猫を抱いて象と泳ぐ』のあらすじと感想

小川洋子は現実からかなり離れた小説を美しい文章で書く作家だと言うことは、『博士の愛した数式』に次いで、『猫を抱いて象と泳ぐ』を読んで感じました。

主人公はどこでも会えないような雰囲気を持っていながら、決して目立とうとせず、自分の世界を持っています。一歩その世界に踏み込むといつの間にか著者の世界に引き込まれていくのです。

『猫を抱いて象と泳ぐ』のあらすじ

リトル・アリョーヒンと呼ばれることになる彼は、上唇と下唇がくっついたまま生まれてきたため、引き裂かれ傷口にすね毛を移植したので唇に毛が生えていました。

私のような俗人は、毛を手術で処理すれば目立たなくなるのにと思いながら読むことになるのですが、作者はそのままの形で物語を進めます。

彼の両親は離婚し、母と弟と3人で母の実家に帰るのですが、母は亡くなり、家具修理の祖父と祖母に育てられることになります。

時々デパートに祖母が連れて行ってくれ、弟と祖母はそれぞれ、プラモデルなどを見ている間、彼はデパートの開業記念として借り受けた象のインディラが大きくなりすぎて降りることが出来なくなり、そこで37歳の一生を終えたと立て札が立っている一角にたたずむのが常でした。

ある日、学校のプールで運転手が死んでいたのを見つけ、バス会社に行ってみると回送バスに住んでいて料理が上手で太ったマスターに出会い、お菓子をごちそうになり、チェスを教えてもらうことになりました。

チェス盤の下には猫のボーンがいてテーブルの下で猫のボーンを抱いて盤の下で考えながら、チェスにのめり込んでいき、いつしかマスターに勝つことが出来るようになったのです。

腕を上げていった少年に、マスターはチェス愛好倶楽部の入会審査を受けるように促します。少年は乗り気ではなかったのですがマスターに勧められるまま行き、ボーンを抱いてテーブル下に隠れて打ったために不合格になってしまいます。

おいしいお菓子を毎日食べて、どんどん太っていくマスターがとても心配でしたが、ある日バスの中で亡くなってしまいました。

猫は見つかりませんでしたが、チェス盤と駒をもって家に帰ってきて、チェス盤を抱えていつまでも嘆き悲しんでいましたが、ある日、チェス盤にチェスを並べたときやっと喪が明けて、かれは小さいまま成長しなくなっていました。

そんな折、チェス愛好倶楽部の事務局長が訪ねてきて、海底チェス倶楽部で人形の中に入って対局することを進めてきたのです。

アシスタントとして壁の間に閉じ込められたと言われていて、毎晩話していたミイラが、リトル・アリョーヒンの補助をしてくれることになります。

老婆令嬢が寄付してくれたという人形の中で、彼女と何度か対局することになります。

この本を読んでいるとチェスの差し方にはその人の人格までもが表れているようです。地下の海底チェス倶楽部に酒に酔った、とても腕のよい人が来ましたが、酔っていて、人形を壊してしまいます。

それを祖父と弟が直すことになったが、直す間は人形をすることになり、人になったになったミイラがいやな思いをしたようで、彼は地下プールでのチェス打ちは止めようと思います。

そのため人形を組み立て直してくれるよう祖父と弟に頼みます。

できあがり再開をすることになっていた前の晩、老婆令嬢が訪ねてきてチェスを打ちます。それを見た、祖母は感激して、次の日になくなります。

リトル・アリョーヒンに【チェスの上手な人求む/老人専用マンション・エチュード】という紙を人形に握らせていくのです。

エチュードの入所者は全員チェス連盟のメーンバーだった人なので施設に入ってもチェスをしたい人ばかりで、夜になるとチェスをやりたくてさまよう人がいることから、その相手をするためにリトル・アリョーヒンは採用されることになったのです。

エチュードでの生活は、満足のいく環境でミイラからもチェスでの連絡が入るようになっていました。

ある日、国際マスターの称号を持つS氏が訪ねてきて、施設の競合とチェスをした後、強風でゴンドラが止まってしまい、リトル・アリョーヒンと対局することになります。それはとても素晴しい対局でリトル・アリョーヒンが勝つことになり、その棋譜が『ビジョンの奇跡』と呼ばれることになったのを、リトル・アリョーヒンは知ることはありませんでした。

夏が去り、冷え込む夜にいつもより多く薪をくべて、リトル・アリョーヒンの中に入り、思いにふけっている間にストーブの事故で一酸化中毒で亡くなってしまったのです。

看護婦さんがリトル・アリョーヒンを大切に抱いて降りるゴンドラが、ミイラが降参を示す記号を持ったゴンドラとすれ違います。

『猫を抱いて象と泳ぐ』の感想

小川洋子という著者の小説の主人公は、自分を誇示すると言うことがなく、海底の中でひっそりと生きているような人たちです。

まだ、『博士の愛した数式』と『猫を抱いて象と泳ぐ』の2作だけしか読んでいませんが、自分の好きなことに没頭し、時を忘れて自分を小さく小さく見せているような人たちで、『猫を抱いて象と泳ぐ』の主人公はチェスを覚えてから、体も成長しなくなって、小さく小さく見えるように生きています。

デパートの開店祝いに借りた象が、育って大きくなりすぎて、降りられなくなったこと、回送バスに住んでいたマスターが太って出ていけなくなるのではと心配していた矢先、亡くなってしまったことから、エチュードの看護婦さんが太っているために、こっそり食事を減らすように、大きくなることに恐怖を抱いていました。

大好きだった象も大きくなったために不幸な結末を迎えたことから、そのように思うようになったのであり、大きくなった大好きな人のことを、いつも思いやっていたようです。

そこにはどのような欲望も亡く、ただ真摯に生きている人たちの姿が書かれていながら、生を受けたものの優しさや寂しさが感じられます。

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