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『夜の光に追われて』 津島 佑子著|「夜の寝覚め」の作者への手紙

2016年3月2日

『夜の光に追われて』は家庭を持っている男の子供を産むことになった孤独感と孤立感、その後9歳になった男の子の突然の死を嘆き悲しんでいる私が千年の昔に書かれた「夜の寝覚め」の作者に手紙を書くことから物語が始まります。

津島 佑子は太宰治の次女であり、様々な賞を受けた有名作家ですが 2016年2月18日に肺がんのため68歳で亡くなりました。

私はこの年齢の方の小説はほとんど読んでいなかったのは、この時期、詩や短歌に深くかかわって、私自身も下手な短歌などを書いていたことが多かったことと、分からないながらも哲学や心理学関係のエッセイを好んで読んでいたからのようです。

そして、津島 佑子の死を知り読んでみたいと思い最初に読んだ本が『夜の光に追われて』です。

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妻のいる男の子供を産む頼りなさとその男の子の死を「夜の寝覚め」へといざなっていく感動の物語

「夜の寝覚め」は平安末期のころに書かれた物語で、作者は未詳ですが、「更級日記」や「浜松中納言物語」を書いた菅原孝標女であるという説が有力なようです。

物語がかなり紛失されていて、残っているのは1部と3部だけで2部と4部が欠けていることからあまり重視されてこなかったようですが、現在は登場人物の精緻な心理描写などが高く評価されているようです。

私は津島祐子の現代語訳であろう、小説の中の「夜の寝覚め」を初めて読むことになりましたが、現代に生きている私たちと同じような悲しみと嘆きを美しい文体でつづっている千年前の物語に感動しました。

そして私生児を生み、その男の子の失ってしまった私の悲しみと物語を一体化させていく作者の力量に引き込まれていきました。

家庭を持っている男の子供を身ごもり産むという孤独感を感じていた時に、「夜の寝覚め」を読むことになり千年前も現在もその悲しさと孤独感は変わらないことを知ることにより、人間の根源である死と生はいつの時代にも私たちにまつわりついた悲しさであり孤立感であると思うようになります。

夜の寝覚めのあらすじ

太政大臣の美しく仲の良い姉妹が同じ男によって引き裂かれていく悲しい物語です。

姉の冴姫は関白左大臣の長男宗政殿と結婚することに決まっていたのですが、厄払いのためにことねの兄の持つ九条の風雅な邸に移っていた妹君の珠姫は褥に入りこんできた宗政との一度の契りで妊娠してしまうのです。

珠姫はそれが姉の結婚相手と知ってからの嘆きは大きく、死んでしまいたいとさえ思うのですが、そのようないきさつを知らない姉君は病になって嘆き悲しんでいる妹君を慰めるのですが妹君の珠姫の心はますます辛くなり消え入るようになってしまいます。

乳母がなくなった後に乳母となったことねは珠姫の次兄の通忠と相談して一部始終を宗政に話すことにしたのですが、宗忠も一夜の思いが忘れられず誰かも分からないその夜の人を、探し当てかくまうつもりでいたということです。

それにしても姉君の夫ですからどうすることもできず、珠姫はますます思い悩んでやつれてしまうのですが、人目のあるところで子を産むことはできず、石山の寂しいところで女の子を産み、子は乳母をつけて宗政の父の関白亭で育てられることになりました。

父も病んでいたが回復して広沢に移り、出家することになった父の家で、姉と妹は会うことになり珠姫は姉の顔を見るのもつらいままに姉は都に戻ります。

そののち都に戻った珠姫のまわりをうろついている宗政を姉君に仕えていた人に見られて周りの人に知られることになってしまいます。

姉の冴子は通忠にも口をきいてくれなくなり珠姫のまわりはやめていく人も多くなり寂しくなってしまうのです。

大君の冴子は自分は尼になり、宗政と珠子を夫婦にしてあげたいと長男の輝忠に話し、長男が父の入道に話したようで、真相を聞きたいと次男の通忠が呼ばれたがそのようなことはないと言ったが、大変な立場にいる珠子を入道は広沢に迎え入れることにします。

珠姫の産んだ宗政の子輝姫が美しく成長していることから、宗政も珠子を思い続けているのですが、広沢の田舎で珠姫は元気を取り戻していきます。

そんな折、50歳にもなる宗政の叔父にあたる左大将の信輔が妻を亡くし、珠姫に思いを寄せていると長男の輝忠が父の入道に話したということで、道忠とことねはびっくりし、その前に宗政に合わせることを思い立ち数夜を共にして珠姫は身ごもったままに嫁ぎます。

左大将の信輔は優しい心の持ち主でその男の子を自分の子としてまさこと名付け盛大なお祝いをしてくれ、珠子は安らかな日を過ごすことができるようになります。

姉とも打ち解けるようになり、仲の良かった姉妹だったころのように手紙でむつみ合っていた折、姉が7年ぶりに身ごもりますが、その頃には夫の宗政は女一の宮と結婚しており寂しい思いを抱えていました。

その姉は難産のため、女の子を珠子に託して亡くなってしまいます。

兄の関白が亡くなった後関白になっていた信輔の3人の娘とも珠姫は仲睦まじく過ごしていたのですが、信輔は娘の結婚相手を決めたいと、長女に宗政を次女の中の君には春の宮に嫁がせたいと整えたある日、高熱を出して帰らぬ人となってしまいました。

その後のことを宗政に託してなくなるので、珠子とも近くにいることが多くなり、信輔の長女との婚約も破談になってますます珠子に惹かれるようになっていきます。

信輔が思っていたような幸せな結婚はできなかったが、信輔の長女は尚侍として入内、次女は浮気性な男、宮の宰相中将に盗み出されてしまい結婚することになりますが、これは珠子と間違ったようです。

三女は宗政の弟と結婚し、次女と三女とは一緒に住み続けるので、穏やかでにぎやかな生活です。

信輔の子供たちの後見人になって顔を合わせることの多くなった宗政は珠子と正式な夫婦になりたいという思いを募らせても、信輔が忘れられず決心がつきませんでした。

長女が尚侍として入内するとき、付き添った珠子に帝冷泉院は執心するようになり、それを逃れるためもあって結局宗政と結婚することになりますが、嫉妬深い宗政に悩まされ、宗政の子を産んだのちに出家し、35歳でこの世を去ったということです。

この物語は最後の部分が欠けているのですが、学者たちの研究によりかなりわかってきた部分があり、その筋を作者によって推察された部分もあり(4部)、それぞれに名前を付けられて、私たちのもとに提示されているのです。

最後の手紙には作者のいくばくかの思いも入れて、最終章をつないでいますが、子をなくすことの悲しみ、この物語に登場する人たちが運命に流されて生きなければならなかったように、思い描いていたようには誰もが生きられない悲しみを綴っています。

そして手紙の中の私が、子を思いがけない形で産むことになった孤立感、健やかに育っている子供の成長を疑わなかったある日、突然に子を失ってしまった悲しみややるせなさは千年を超える昔も今も変わりはなく、死はいつ誰の身に起こるかわからないことを私たちに提示してくれます。

『夜の光に追われて』の読後感

作者はどのような身分であれ、死はどこにでも、誰にでも起こることであり、どんなに子供を思っている親でさえ、親の思うような幸せを子供はつかむことができないのだろうという寂しさが、千年前の物語から、自分の子を亡くした寂しさを導き出して私たちに教えてくれます。

作者の母もまた子を失った悲しみを抱えて生きているのだが、兄弟の死と子供の死は同列に考えることができないものだという思いを持ち、子を失った母という立場は同じであるゆえに何も話すことをせず、同じ家に暮らしている様子を書いています。

子供を失った時に、自分の子供だけがどうして死んでしまうのだろうという思いから抜け出せず、天災が来ることを願うようになったりします。

また、自分と同じように子供を亡くした親をニュースで拾い上げた時千差万別の死があることを知りこの世に生を受けた人にとって死は避けがたいものだということを知って少しは心が安らいだようです。

しかし、千年も昔の物語を読むことになり、子を産むことができなかった人の悩みや寂しさは現在と少しも変るところがなく、現在のように産むことや産まないことを選ぶことができるようになってさえ、子供を持てない悲しみを味わっている人が多いことを私はこの物語から知ることになりました。

自分の人生を選び取ることができるようになったとうぬぼれている現代の私たちに、生きることはそれほど簡単なことではないとこの本は教えているのだと思いました。

たぶん人間の心は千年という単位では変わることのできない業を持ち続けているのだろうというのがこの本の読後感でした。

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