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『アンダーグラウンド』 村上春樹著ー地下鉄サリン事件の被害者へのインタビュー

1995年3月20日オウム真理教の信者が起した地下鉄サリン事件は3800人の被害者を出しました。また、乗客や駅員ら13人が死亡しており、被害者の中には重症患者も含まれています。

麻原彰晃を教祖とするオウム真理教とは何か、という疑問を作者は感じたといいます。このインタビューは、事件発生後9カ月を経た時点に開始、1年9カ月後まで続けられたようです。

坂本堤弁護士一家殺害事件、松本サリン事件、地下鉄サリン事件などにかかわっていた人の裁判が行われていましたが、麻原彰晃をはじめ死刑が確定していた13人の死刑執行が2018年7月6日と2018年8月25日に行われました。

地下鉄サリン事件から23年も過ぎていることから、若い方の中にはその事件さえ知らなかった人もいたようですが、死刑執行のニュースが大きく流れたことで多くの国民に再認知されることになりました。

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地下鉄サリン事件で被害に遭われた方62人の証言

地下鉄サリン事件とは、千代田線(我孫子発代々木上原行)、丸ノ内線(荻窪行)、丸ノ内線(池袋行/折り返し)、日比谷線(中目黒発)、日比谷線(北千住発中目黒行)の通勤電車の混み合っているところにサリンの入ったポリ袋を新聞紙に包んで持ち込み足元に置いて、傘の先端をとがらせたもので突き刺して穴をあけ多くの人に被害を与え日本を震撼させました。

千代田線の実行チームは林郁夫と新實智光で、2人が死亡、231人が傷害を受けました。丸ノ内線(荻窪行)での実行チームは廣瀬健一と北村浩一で乗客1人が亡くなり、358人が重軽症を負いました。丸ノ内線(池袋行/折り返し)の実行チームは横山真人と外崎清隆で、死者は出なかったが200人が重軽傷を負いました。日比谷線(中目黒発)の実行チームは豊田享と高橋克也で死者が1人で重軽傷は532人に及びました。日比谷線(北千住発中目黒行)の実行チームは林泰男と杉本繁郎で他のチームより多い3個のサリンを車内に置いて沢山穴をあけたようで、8人が死亡し2475人が重軽傷を負うという最大の惨事になりました。

被害者62人が語った事件前の人生と事件後の生き方

それぞれの路線に乗り込んだ被害者は、何が起きたかわからないままに事件に巻き込まれてしまいました。それが誰であっても巻き込まれうることで事件当初は何が起きたのか分からないというのが当事者たちの思いだったようです。

縮瞳により、晴れているにも関わらず、見えるものが暗くなったという人がほとんどのようでした。その上頭痛、咳、吐き気、体に力が入らずに倒れ込んでしまうという方が多かったようです。

ある人は風邪をひいていたために体調が悪くなったと思い、ある方は疲れがたまっていたのではないかと思いながら、必死に会社に向かうさまは自分が何のためにそのようになっているのかさえ分からなかったようです。

地下鉄の職員も何が起きたのかわからず、倒れてている人をなんとか解剖し病院に運ぶということ以外に考えられなかったにもかかわらず、職員さえも倒れ、そこを通りかかった人が介抱をして、被害に遭うというありさまだったようです。

救急車は間に合わず、タクシーだけでなく走っている車を止めて、病院まで運んでもらうというありさまでした。そのような中、有毒ガスではないかということになりますが、松本サリン事件をの患者を診た信州大学から治療法が送られてきて、コリンエステラーゼ値が下がって縮瞳などが起きることが分かり、治療方法や治療のラインを知るうえで役に立ったといいます。

筋肉を動かすときには、アセチルコリンという物質が出て動くように筋肉細胞に命令し、収縮が終わるとコリンエストラーゼという酵素がその伝令役のアセチルコリンを不活化すのだが、命令を出したアセチルコリンがそのまま残ってしまうので、それが目に関していえば縮瞳した状態が続くことになるといいます。

作者は治療に当たった医師やPTSDの治療をしている、精神科の医師など広い分野の人にインタビューをしています。

全被害者に比べたら62人は少ないのでしょうが、重症患者を含めその方の生き方から被害にあった時の状況、1年近く過ぎてどのように感じているかなど作者の私情を入れないインタビューは被害者としての状況が読者である私にも伝わってくるものがありました。

インタビューに応じてくれた方の生き方を聞いているとそれぞれに一生懸命生きている善良な方が多いことと事件に巻き込まれて、今までの生活や考え方の変わった人など今を生きている人たちの姿を見ることが出来たとともに、私たちがいつこのような事件にまきこまれても不思議でないという思いを深くしました。

それぞれが、今日を一生懸命生きている中で起きた大きな事件であることに、1年を過ぎても心の整理がつかない人もおり、なぜこのような事件が起きたのだろうという原点は何一つ見えてきていません。

インタビューをした作者もこの問題についての答えのようなものは何一つ導き出さないまま、事件に巻き込まれた人の生き方、考え方を私たちの前に提起して一緒に考えたいという風な書き方でした。

問題提起を受けた私たちは、優秀な若者がどのような形でオウム真理教を信仰するに至ったのか生きるとはどのようなことなのかを深く考えざるを得ませんでした。

日本と言わず世界には宗教というものが数限りなく存在します。宗教の教えによって考えることをやめてしまう人達が増えていくことを私たちは考えなければならないと思います。そしてこれは宗教の問題ばかりでなく、ある集団の中で、生き方を人任せにすることが楽だと考えるような子供たちが増えていくことにも不安を感じ始めています。

地下鉄サリン事件で亡くなった方のご両親、奥さんのインタビュー

地下鉄サリン事件で息子を亡くしたご両親と事件後に赤ちゃんが生まれた奥さんのインタビューを載せていますが、このような事件で子供を亡くした親の気持ちは計り知れないものがあります。お母さんはそのことを知ってからいろいろなことを忘れてしまい、頭の中が真っ白になったといいます。

この話を聞いて戦争で子供を亡くした親の気持ちもこのようなものだったのだろうと亡くなった息子の年齢から感じました。

また、奥さんはその後子供を出産して生きているわけですが、どんなにつらいかと思いやるばかりです。

なぜ、このような事件が起きたのか、分からないままに置きざれにされている人々の悲しみを思うとき、2度と同じようなことが起きないようにするにはなにが必要かを考えさせられました。

最後に、作家村上春樹の文章はかなり深いところを書いていながら、とても読みやすいことを分厚い本を読みながら感じました。



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