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『私を離さないで』カズオ・イシグロ著 土屋政男訳

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『私を離さないで』は、著者のカズオ・イシグロ氏が2005月年発表の長編小説です。1989年刊行の『日の名残り』に次いで読んだ著者の作品ですが、『日の名残り』を読んだ時とは全く違った感情が残っていて、世界の医学の進歩をどのようにとらえたらよいのかを自問自答することになりました。

とてつもない大きな遺伝子工学の問題を、それとは感じさせないような淡々とした文体で書かれているが読み進むうちに臓器提供のためにつくられた少年少女たちの無邪気さの中に潜む恐れのような世界がかいま見えて戦慄を覚えながらも、淡々とした文章と深い洞察力はそれを超えて読み進ませる力を持っています。

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『私を離さないで』のあらすじと読書感想

1990年代のイギリスで提供者たちの介護をする31歳のキャシーは、田舎をあちこち移動するときに今はなくなっているヘールシャムにある施設で暮らしたことを思い出し、回想してしていきます。

第1章

ヘールシャムは、外界から隔離された全寮制の学校で、主任保護官のエミリ先生を中心に保護官達の先生が授業をし、監督しています。この中の生徒たちの日常はどこにでもある全寮制の生活とあまり変わらないのではないかと思うように、仲の良い友達を作り時間を忘れて話し合ったり、喧嘩をしたり、誰かが中心になって仲間が集めたり、そんなたわいもない生活が書かれています。

そして、学校では図画工作や詩を作ることなどが主に行われており、優秀な作品は、マダムが収集し外部で展示されているといううわさがありました。残りは販売会に出品され、出品でもらった交換切符で買うことができました。

宝箱と子供たちが言っている木箱に、それらを入れて自慢したり楽しんでいる様子は普通の少年少女と変わりなく見えながら、不条理から抜け出せない生の悲しさを巧みに描いています。

子供たちは自分たちがクローン人間であること、子供を産むことができない体であり、将来について語り合うことがないことがなく、そこでの生活以外を知りえない存在でありながらも、その不思議な存在自体は年長の子供から引き継がれることで、自分たちの存在が普通でないことはどこかで知っているようです。

ルーシー先生から生徒たちは臓器移植のためにつくられた存在であり、大人になることさえできないといわれたことさえ、実感としてどのくらいわかっていたかは不思議に感じます。

生徒たちには大人は保護管くらいしか見たことがなかったのですから、少しずつ知りえた情報のすべてが、子供たちの将来だったのではないでしょうか。

第2章

16歳になった生徒たちはいくつかの場所に移されます。キャシー、ルース、トミーら8人は廃業した農場を利用したコテージに行きます。そこには他の施設出身者とともに過ごし、最長2年かけて論文を書くことになりますが、保護管はいず、年老いたケファーズさんが物資を届けたりしてくれるだけの集団生活ですが、途中で介護人になる訓練に行く事もできます。

恋愛は自由で様々なカップルができていて、先輩の先輩カップルのクリシーとロドニーからルースの「ポシブル」らしい人を見たと聞かされます。提供者として造られた彼らは人工的なクローン人間であり子供も作れないとわかっていますが、それぞれのオリジナルを「ポシブル」と呼び、会うことがないとは思いながらも、自分たちのルーツには敏感です。

ルース、トミーはカップルになっており、彼らと仲の良いキャシーが、先輩のクリシーとロドニーに連れられてノーフォークに行きますが、出会うことができたその女性は「ポシブル」ではなかったことで、それぞれの思いが交錯し、言い合いになり、クリシーとロドニーとルースは看護人になっているマーチンに会いに行くことにしましたが、キャシーはいかないといいトミーも残ることにしました。

ルースはキャッシーにロストコーナーにいるのだからとキャシーが昔なくしたカセットテープ「夜に聞く歌」を見つけてプレゼントしてくれました。そのテープの歌詞が「ベイビー、私を離さないで」です。

そのことをルースに言いそびれたことから、ルースの誘導によってキャシーとトミーは仲違いをし、ルースとの仲も悪くなり、キャシーは論文を終わることなく、介護人になることに決めていました。

第3章

キャッシーがコテージを出て7年が過ぎていました。その間にたくさんの提供者を介護人としてつらい孤独な日々を過ごしてきましたが、介護人としての仕事に向いているようだとキャッシーは思っています。

そのころローラに偶然に会い、キャッシーがコテージを出た後にローラの言動は惨くなりルースともわかれ、現在は1度目の提供を終えているので介護人になってあっげてはどうかと言われてルースの介護人になります。

湿地に座礁した船があるというニュースが流れ、その近くの回復センターにトミーがいるので一緒に見に行くことになりました。トミーも2回目の提供が終わったとのようでした。

船を見た帰り、ルースがキャッシーとトミーに本当は二人がカップルになるわけだったのにそれを邪魔をしたと・・・。許されることではないがと、マダムの住所を書いた紙をトミーに渡し、キャッシーがその気になったら訪ねてほしいと渡しました。

その後、ルースが2度目の提供で亡くなり、ルーシーが望んでいたように、キャッシーは3回目の提供を終えたトミーの介護人になることにしました。

2人は昔を取り戻すようにカップルになり、マダムを訪ねたのですが、マダムと一緒に暮らしていたエミリ先生が説明してくれ、カップルであれば与える提供の猶予などは噂でしかなく、保護官にそんな力は無かったことがわかりました。

エミリ先生とマダムはクロー人間でも、教育すれば普通の人間のように育つことを証明するためにヘールシャムの施設を作り、子供達の作品を集めて展示会を開き寄付を募っていたといいます。

しかしモーニングデールという科学者が、能力を強化したクローン人間を作る違法な研究をしていたことが発覚したことから、クローン人間に対する嫌悪感が広まり、資金も得られなくなり、ヘールシャムは閉鎖せざるを得なかった教えてくれました。

エミリー先生は生徒に嘘をついても希望を持たせ、一生懸命生きることを教えようとしたが、トミーに好きでなけらば絵を描かなくてもよいと教えてくれたルーシー先生は本当のことを教えるべきだということで、意見が対立してやめていったこと、マダムは昔キャシーがカセットテープを聞きながら踊っていたのも覚えていて、残酷な世界に生きる少女に胸を打たれたといいました。

トミーは4度目の提供をすることになり、介護にをキャッシーでない人にお願いしたいといわれ、キャッシーはトミーのもとを去ることになりました。

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『私を離さないで』の読後感

淡々と全寮制の子供たちと保護管の話からどこにでもある施設や学校という感じで読み進むうちに、何か不思議な雰囲気が漂っているのを感じ始めたころクローン人間であり、長くは生きられないということがわかってきます。

人間の欲望の元、どのような病気でも直そうと臓器移植が行われるようになり、提供者としてのクローン人間がつくられるようになったという前提でこの物語は書かれていますが、この小説はその奥に隠れた人間の限りない欲望と、遺伝子工学の進展によってもたらされる現状がどのような矛盾をもたらすのか、という現代の中に私たちは生きていることを感じずにはいられません。

科学は人のために使うのでしょうが、そのために不幸になる人が出てくることは倫理上考えなければなりません。この小説は人間と科学の関係を真剣に考えさせられる小説であると思いますが、読み方や読む人にとって様々な読み方ができるのかもしれません。

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