『乳と卵』川上未映子著
川上未映子の作品は数冊読んでいるが、芥川賞受賞の『乳と卵』は読んでいなかったし、『夏物語り』を読んだとき、『夏物語り』は『乳と卵』の続きのようだと書いてあり、近いうちに読んで見ようと思っていたが、今回読むことが出来ました。 『夏物語り』は『乳と卵』の続きのようなところから発展していくとは言っても、かなり手触りの異なる作品のようです。 『ヘヴン』は眠れない夜に寝るために朗読を訊いたのだが、朝まで訊いてしまい、その後本を購入して読んだ作品ということで、偶然に私の好きな作家となったのが川上未映子です。 『乳と卵 ...
『ねむり』村上春樹著
『ねむり』は1989年発行の『眠り』に手を入れて2010年に発行されたということです。 私は『眠り』の方は読んでいませんが、『ノルウェーの森』と『ダンス・ダンス・ダンス』を書いた後、小説を書けないでローマにいた頃の春に書いたもので、『記念すべき作品になっている』とあとがきに書いています。 『ねむり』はドイツのデュモン社から素敵な装丁の本として出版されました。 『ねむり』のあらすじと読後感 『ノルウェーの森』と『ダンス・ダンス・ダンス』を書いた後に「作家としても、個人としても、あれこれきついことが立て続けに ...
『アフターダーク』村上春樹著
『アフターダーク』は2004年9月発行なので、『海辺のカフカ』の2年後の作品になります。 初期作品はぼくという1人称で書かれていたが、この作品の私たちはカメラアイの視点で人物に近づいたり遠のいたり、向こうにまわったり、上から覗いたりします。 著者はこの作品を書くことによって、一段上の文体を獲得したのかもしれません。 『アフターダーク』のあらすじと感想 深夜から朝までの数時間の出来事を書いて、これだけの深く沢山の人間を入れて、私たちに感動を与えてくれるのですから、村上春樹の文章力はさすがとしか言いようがあり ...
『スプートニクの恋人』村上春樹著
1999年4月20日第1刷発行の『スプートニクの恋人』を読んだ。 22年前に発行された本で、『ねじまき鳥クロニクル』の後、『海辺のカフカ』の2年前の発行となっている、中編小説という位置付けになるのだろうか。 『ねじまき鳥クロニクル』も『海辺のカフカ』も読んでいたのだが、『スプートニクの恋人』はなぜか読むことなく過ぎてしまい、今回読むことになった作品になる。 1999年といえば、村上春樹50歳、成熟という言葉は当てはまらないかもしれないが、とても自然に読める作品になっていると思いながら読んだ。 読んでいる時 ...
『みみずくは黄昏に飛びたつ』川上未映子、村上春樹に訊く
本著『みみずくは黄昏に飛びたつ』は、川上未映子が訊き、村上春樹答えると言うかたちのロングインタビューです。 年齢は違うものの2人とも現代日本を代表するような作家なので、どのような話が聞けるかかなり期待して読み始めましたが、かなりの文章が収められていて、期待以上に面白く村上春樹という作家の精神性や日常を掘り下げて知ることができたことは、村上春樹文学への理解を深めることができました。 日本の現代作家の中で一番多くの本を読んでいるだろうと思っていましたが、その中で読んでいなかった本の話も出てきて、数冊注文しなが ...
『指先で紡ぐ愛』グチもケンカもトキメキもー光成沢実著
盲ろう者の東大教授(この当時は東大助教授)、福島智さんの妻の光成沢美さんが出会いから結婚しての2人の生活を書いています。 盲ろう者として初めて大学進学をした福島智さんは前向きに学問を究め、沢山の本を読んでご自分が一番なりたかったという大学教授、それも東大の教授になります。 耳も聞こえず、光さえ見えない福島智さんがどのように生きてきたかは、『ぼくの命は言葉と共にある』を読むとその人となりが分かるような気がします。 盲ろう者であっても人並み外れた知識と強い精神力をもつ夫との生活は楽しいことばかりではなかっただ ...
『豊饒の海(4)』「天人五衰」三島由紀夫著
「天人五衰」は『豊穣の海』の最終章で、この集の原稿を収めた後割腹自決をします。 1970年(昭和45年)11月25日、三島は陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地内東部方面総監部の総監室を森田必勝ら楯の会会員4名と共に訪れ、面談中に突如、益田兼利総監を人質にして籠城すると、バルコニーから檄文を撒き、自衛隊の決起を促す演説をした直後に割腹自決した。45歳没。 出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 『豊饒の海(4)』「天人五衰」のあらすじと感想 梨枝が亡くなり三日にあげず会っていた本多と慶子の友情も ...
『豊饒の海(3)』「暁の寺」三島由紀夫著
『豊饒の海(3)』「暁の寺」 三島由紀夫の最後の長編小説「豊穣の海は、「春の雪」「奔馬」「暁の寺」「天人五衰」の全4巻で構成される、輪廻転生をテーマにした物語です。 「暁の寺」は感応的美女の生まれ変わったジン・ジャンの物語です。 『豊饒の海(3)』「暁の寺」のあらすじと感想 「暁の寺」は2部からなり、47歳の本多が弁護士としてバンコクで仕事をした時から始まります。 そこで、学習院時代に清彰の家で知り合ったシャム王子の一番下の7歳になる姫君ジン・ジャンが、自分は日本人の生まれ代わりだと言っているということを ...
『豊饒の海(2)』「奔馬」三島由紀夫著
『豊饒の海(2)』「奔馬」 『豊穣の海』「春の雪」に続く2巻目「奔馬」です。 時代も昭和になって、財界が巨峰の富を得るようになった時代背景があります。 三島由紀夫の自殺も、「奔馬」の主人公飯沼勲の起こした事件も私には肯えることではないのに、華麗な文章でつづる物語に私は深いところで感動していました。 『豊饒の海(2)』「奔馬」のあらすじと感想 清彰が20歳で亡くなってから18年後、38歳の控訴院判事となった本多繁邦の前に生まれ変わりの飯沼勲が現れます。 5.15事件が起こり、太平洋戦争前の日本が不穏な空気に ...
『豊饒の海(1)』「春の雪」三島由紀夫著
『豊穣の海(1)』「春の海」 ノーベル文学賞の候補になった三島由紀夫は、日本だけではなく海外にも認められた作家です。 幼少から詩や俳句などを書き、国内外の書物を読んで16歳には小説が掲載されるようになります。 45歳で自刃するまで多くの小説、劇曲、随筆を書き数々の受賞をしています。 『豊饒の海』は三島由紀夫の最後の長編大作で、「春の雪」「奔馬」「暁の寺」「天人五衰」の4巻で構成されます。 それは、輪廻転生をテーマにした壮大な物語です。 『豊饒の海(1)』「春の雪」あらすじと感想 三島由紀夫の小説は「潮騒」 ...
『ぼくの命は言葉とともにある』福島智著
著者は、9歳で失明、18歳で聴力も失ったあと、東京都立大に入り、東大教授となり指点字という手段でコミュニケーションを取りながら思索してきたことを書いています。 子供の頃にヘレンケラーの伝記を読んでいてその生き方に感動していたと言うから、盲ろうとなったときにヘレンケラーの生き方は著者の心の支えになったことだろうと思いながら読みました。 ヘレンケラーは生後19ヶ月で熱病のため失明と同時に耳も聞こえなくなった人で6歳の時に、アニー・サリヴァンと言う優れた先生と出会い、めざましい成長をし、世界各国を訪れて社会福祉 ...
『関東大震災』吉村昭著
吉村昭は1927年東京生まれ、2006年に亡くなっています。 両親が関東大震災に遭い、幼い頃から体験談を聞かされたことにより、災害時の人間に対する恐怖感に戦慄し、様々な文献を参考に体験者の話をまとめて書いたようです。 他県ではありますが、関東地方に住んでいた、明治生まれの素祖母から幼い日に東京方面の夜の空を真っ赤に染めていたという話を聞かされていたことから、すごい地震だったのだろうとは思っていましたが、この本により生やさしい恐ろしさではなかったことが伝わってきました。 わたしは、東日本大震災は関東地方に住 ...
『愛の夢とか』川上未映子著
川上未映子の短編小説集です。 川上未映子の作品は『ヘヴン』読んで好きになりました。 長編の『夏物の語』に継いで3作目ですが、谷崎潤一郎賞を受賞したという短編小説からは語られない部分から漂ってくる心のひだのようなものが漂っています。 筋という物が殆ど無いところにも匂い出てくる何かが感動を与えてくれるような物語でした。 『愛の夢とか』5篇を読む とても短い短篇やすこし長いものなど、7篇の物語が入っています。 東日本大震災後に書かれただろう数編があり、どこかに不安感が息づいているようです。 村上春樹の小説はかな ...
『夏物語』川上未映子著
『夏物語』は川上未映子の作品『ヘヴン』に次いで2冊目に読んだ作品です。 わたしの好きな作家はそれぞれに個性的であり、それに惹かれて何冊もの作品を読むことになるのだが、これだけ読みいやすい文章で読者を引きつける才能はすごいと思いました。 所々に出てくる大阪弁が功を奏して、読者に親しみを感じさせ嫌みの無い物語を醸し出します。 冷静に自分を見つめ、切れ目のない長編を読ませる才能は冷静に物を見ることが出来るからだと思いました。 俗に陥りやすい内容を消化させることが出来るのも才能なのでしょう。 『夏物語』のあらすじ ...
『フルハウス』柳 美里著
1996年6月刊行の小説なので、25年も前の刊行であり、著者の初期作品になるようです。 『生(生きる)』2001年8月30日を読んで、つぎに読んだ本が、『フルハウス』かもしれません。 25年も前の小説を、本箱を整理していて見つけて読んだのですが、それだけわたしの時間が過ぎていたので、おぼろげに読んだ記憶を感じながら、読み進むうちに思い出しながら読むことになりました。 『生(生きる)』を読んだことにより、柳美里の生い立ちなどを作者が書いた物により、ある程度分かっていたことは良くも悪くも作品を読む上で理解をす ...
『ヘヴン』川上未映子著
2009年9月に発行された小説なので十数年前に発行されたことになります。 2008年に『乳と卵』で138回芥川賞を受賞して、翌年にこれほど感動的な作品を書くのですから、才能のある作家なのでしょうが、わたしは著者の作品は初めて読みました。 あくまでも気分次第なのですが、芥川賞の作家の小説をいち早く読んだり、あまり読まなかったりとその時々の気分が大きいように思います。 芥川賞をとってもその後あまり小説を書かなくなる作家などもいるのですが、2作目に書いた小説がこれほど感動的なのはよほど才能のある作者なのだろうと ...
『空白を満たしなさい』平野啓一郎著
2012年12月発行の平野啓一郎氏の著著です。 自死をを選んだ主人公が生き返り、自分は誰かに殺されたのだと思いが強く自殺を認められなかったが、分人という考え方の中から、自分は自殺をしたが死にたかったわけではなかったという思いを強くします。 自分のそしてその他の様々な人の分人を探し当て、自分が自殺したことに納得していきます。 今に続く著者の作品には分人とと言う概念が大きな位置を占めていると思っているが、この物語の中はとりわけ分人をテーマにしているのではないかと思いながら読みました。 『空白を満たしなさい』の ...
『総理にされた男』中山七里著
中山七里氏の著書は初めて読みました。 わたしはミステリー小説はあまり読まないのだが、妹が貸してくれたので題名が面白そうなのにつられて早速読んで見ました。 単行本は2015年、文庫本は2017年なので、数年前に書かれていますが、いつも国会の予算委員会などをネットで見ているわたしには、甘い感じと偏った感じはありましたが、それは思想的な部分もあるので仕方がないのかもしれません。 『総理にされた男』あらすじと感想 池上彰氏が解説を書いていますが、氏はこの本を読むことで、政治の基本的な流れや仕組みを学ぶことができま ...