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『主権なき平和国家』伊勢崎賢治×布施祐仁著ー地位協定の国際批判から見る日本の姿

米国による主権の継続と主権剥奪の現実を元PKO幹部で東京外大教授伊勢崎賢治氏とジャーナリスト布施祐仁氏による共著により詳しく書いた本です。

米軍基地の近くに住んでいない人たちにとっては人ごとのような日米地位協定によって、戦後から現在までアメリカの「占領状態」が続いているのです。

この現状を変えないで憲法改正などありえないというのが、著者たちの一致するところです。しかし二人の考えは一致しているわけではなく、護憲派、改憲派という立場からの意見を書いています。

布施祐仁氏が、伊勢崎賢治氏に長時間にわたりインタビューしたものを書き起こし、布施祐仁氏が綿密な歴史的文献、海外文献の調査を加え、伊勢崎賢治氏が確認の加筆をするというプロセスでまとめたものということです。

『主権なき平和国家』を読んで

米軍基地は日本全国にありますが、沖縄件に占める割合が多く、様々な問題を引き起こしています。米軍による婦女暴行事件や殺人が大きな問題となり、多くの国民の知るところとなっていますが、その詳細について知ることが出来るのが本書であり、日米地位協定は海外の諸国に比べていかに主権国家間の正常性を欠いたものであることが分かります。

日本は独立国家として、アメリカと対等な立場をとる必要があるのではないかと思いました。主権の解決なくして、憲法改正の論議はありえないと思わされました。

序章ー主権にあいまいな国

日本に駐留する米軍でもたくさんの軍属(軍人以外で軍隊に所属する者のことをいう)その人たちにも日米地位協定が適用され、様々な面で特権が与えられています。ただし、日米地位協定においては意味が異なり、軍の組織に所属しない民間の米軍関係者をそう呼称しているの人が働いています。

NATO地位協定が、軍属に随伴し雇用されているものと明確になっているのに対して、日本の場合は上のように軍属に随伴し雇用されているものも明確さを欠き、雇用関係がなく、米軍が業務上の監督責任を完全に負えない個人まで軍属に含むことが可能な規定になっています。

このように、米国の監督責任が完全に及ばない個人まで軍属としての面積責任を与えるというのは、NATO地位協定ではありえないことです。

これらの異常さをドイツ、イタリア、韓国、フィリピン、アフガニスタン、イラクの駐留米軍と日本における米軍の地位を徹底比較しています。

第1章ー刑事裁判権

日米地位協定は1960年1月19日日米安保条約と同時に署名されました。この二つの国際条約の承認をめぐって、条約の承認を阻止しようと連日10万人を超える規模の学生や市民が国会議事堂を囲みました。これが有名な60年安保闘争です。

日米安保条約では、アメリカは日本の安全と極東の平和を維持するために日本に基地を置くことが出来ると定めています。そして、日米地位協定とは「日本で活動するさまざまな特権を認める協定」と言えます。

独立した主権国家であり、法治国家である日本が、「例外」を設けて、米軍やその関係者に特別な権利を与えているのが日米地位協定です。

日米地位協定は他の国と比べて不利ではないと日本政府は言っているようですが、著者は他の国との例を挙げて疑問を呈しています。日本は米軍の特権を当たり前と考えているようですが、オバマ大統領はイラクから米軍を完全撤収させるとき、「主権国家間の正常な関係、対等なパートナーシップという新時代の幕開けだ」と語りました。

この言葉が示すように、一つの主権国家に外国の軍隊が駐留し、様々な特権が与えられている状態は主権国家間の「正常な関係」とは言えず、その国にいる人はその国の法律に服するの国際法のルールであるが、地位協定はこの例外を設けるもので、裁判家などの権利を受け入れ国が派遣国のために放棄する」としています。

軍隊を派遣しているアメリカが、「特権は例外」と言っているのに、「受け入れ国である日本は当たり前」と言っているのです。これはそう言わなければならない程日米地位協定が米軍に広範な特権を当てているのです。

第2章ー基地管理権

米軍の飛行訓練中の事故について、各国と日本の対応について書いていますが、驚くほど日本は事故後の対応をアメリカ任せにしていて、何の権限も持たないかを各国と比べて書いています。

何故これほど日本はアメリカに対して、ものを言うことが出来ないのか不思議になります。紛争になった時、日本基地から飛び立てば日本は攻撃されることになるという現実を認め、地位協定をあいまいなままにしないことの重要性を説いています。

21世紀になり、アメリカは世界最強の通常戦力をもってしても太刀打ちできない敵を自ら作ってしまいました。そのテロリストの敵はアメリカであり、そのアメリカを胎内に置いているの深刻さを日本は認識しないといけないといいます。

「日米安保でアメリカに守ってもらう」と考えていればよい時代は終わり、アメリカが勝てない相手に、「アメリカの代わりに狙われるリスク」について考える時代になったといいます。

米軍に対して、主権を放棄し、その運用に対して口を出せない日本政府の姿勢は、低空飛行訓練などで国民の命や安全を脅かすだけでなく、国民を戦争やテロに巻き込む危険性もあるようです。

第3章ー全土基地方式と思いやり予算

日米地位協定は、アメリカに対し、日本のどこにでも基地や訓練区域の提供を認める「権利」を認めているというのです。このようなことから、ロシアが北方領土を変換したら、基地がつくられる可能性があるということです。これでは北方領土の返還などできようはずもありません。このような驚くべきことが日米安保条約では締結されているのです。

そればかりでなく、基地提供にかかる費用は年々増加し、日本の自衛隊に比べてかなり豪華な宿舎を用意し、在日米軍の駐留負担は増加を余儀なくされています。

日米安保条約は日本がアメリカに守ってもらっているという思いを抱く人もいるようですが、第一の目標は日本の防衛以外にあります。

1968年に12月6日にアメリカ国防総長が作成した極秘文書には、「日本防衛の基地は一つもない。いくつかの部隊が副次的に、そのような任務を持っているだけだ」記されているようです。

実際アメリカ米軍基地は、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争とアメリカが第二次世界大戦後にアジアや中東で行った軍事行動のほとんどで出撃拠点や兵站拠点として使われてきたのです。

日本が集団的自衛権の一部行使ができるようになってからも、費用負担は増えるばかりのようです。

第4章ー国連PKO地位協定

日本は1992年にカンボジアPKOに自衛隊を派遣して以来モザンビーク、ゴラン高原、東ティモール、スーダン、ハイチ、南スーダンなど計14の国連PKOに参加してきました。部隊としては施設部隊を派遣し、後方支援活動を担ってきました。これら国連PKOで活躍する法的地位を定めているのは、国連地位協定です。

PKO地位協定では、刑事裁判権については、公務中、公務外にかかわらず、PKO要員には完全な免責特権が与えられます。国連PKOは、国連が紛争地域の平和の維持のために行う活動であることから「武力紛争の当事者」になることは想定されていませんでした。

しかし、ルワンダ大虐殺を契機に、PKO部隊自信が「武力紛争の当事者}になってでも住民を守ることを、国連が決意しました。これによって、平和維持活動を行うPKO要員も戦闘員として戦闘員として武力紛争に関与し、武力行使をする場合には国際人道法が適用されることが、国連の一般原則となったのです。

それは憲法九条で国際紛争における武力の行使を禁じていますが、国連のPKOは停戦が破られても撤退せず、武力紛争に介入してでも住民を保護しなければならないとなっています。

PKOにはに国連平和維持軍(PKF)があり、自衛隊もが行う「駆け付け警護」もそのコマンド下にあります。国連平和維持軍(PKF)は文字通り「部隊」です。日本政府の言い訳は通用せず、九条が禁止する武力行使をせざるを得ないようです。

第5章ー日本地位協定改定案

日本は行動の自由を制限され、世界の大国になりうる力を持ちながら、アメリカの保護国であるという言葉に、私たちの平和の土台が崩れたような気持ちになりました。私をはじめ平和ボケをした日本人の多くはこのような状態を知らずに生きているのだろうと思いました。

まずは全土基地方式の廃止をしないことには北方領土の返還などかなわないことを国民が知ること、また基地管理権の獲得、刑事裁判権の強化、地位協定が改定されることが大切だと感じました。

すべてが理解できたとはいいがたいですが、どのような立場の上で、私たちが生活しているのかを知ることが出来、平和とは勝ち取るものであることを感じました。


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