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『不死身の特攻兵』鴻上尚史著|特攻隊という衝撃の実像

太平洋戦争の最後の手段として、特攻兵となって志願して国のために死んでいった若者を美化する書籍が多く出ています。

私は読んでみたいと思いながらもなぜか今まで読んだことがないのは、美化されて死んでいった若者の心をお国のために喜んで死んでいったという見出しに違和感を覚えたことによります。

そのような本ばかりではなかったのでしょうが、この度、9回の出撃をして生きて帰って来たという特攻兵がいたことが分かり、その方からの聞き取りで書いたという本に出会うことが出来て、早速購入しました。

2015年に佐々木友次さんが生存していることが分かり数回インタビューをして書き上げたのがこの本です。次の年に亡くなっていることからこのような特攻兵がいたことを世に知らしめることが出来たことは奇跡としか言いようがない気がします。

戦争という現実を知るためにも、戦争をしたない若い方にも読んでほしい一冊です。

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9回の出撃、生還を果たした特攻兵

特攻兵となっても「死ななくてもいいと思います。死ぬまで何度でも行って爆弾を命中させます」と言って特攻兵となって生きて帰って来たのが、陸軍第一回の特攻隊「万朶隊」の岩本隊長の元に配属された佐々木友次はフィリピンに向かいます。

「万朶隊」など最初に選ばれた特攻隊はエリート操縦士が選ばれたということです。岩本隊長以下将校操縦士4名、佐々木たち下士官の操縦士8名、通信係4名、機体整備11名となっていました。

与えられた飛行機は、「死の角」が生えている九九双軽でした。角に爆弾が付いていて、自爆以外に爆弾を落とすことが出来ないように作られていましたが、体当たり期の構造の仕組みをしていた竹下少佐が爆弾を落とす仕組みを教えてくれました。

この時代にも人間の無駄死にを我慢できない上司がいたのです。岩本大尉は悩んだ挙句フィリピンについてから突撃しなくても爆弾を落とせるように改修し隊員たちに使い方を教えたのです。

それでも、激戦区でいつ戦闘機に襲われるかわからない中、相手の軍艦を沈めることは容易ではなかったようです。岩本隊長も戦闘機に襲われて戦死してしまいます。

改良された九九双軽で爆弾を2度命中させて、命中させたたびに戦死したことになり、戦死の報が日本に入ります。

それでも生きて帰る佐々木に今度こそは死んで来いと出撃命令が入りますが、生きて帰った特攻兵がいたことは日本ではあまり知られていないようです。

特攻隊は撃墜して死んでこそ英雄なのであり、生きて帰ってきたことは誰にも褒められず冷たい仕打ちだったと言います。

マラリアにかかり生死の境をさまよったあと、フィリピンの山には入り食べられるものは何でも食べて生き延びました。そして終戦、捕虜になった後に帰って来たのです。

日露戦争に行った父から、「人間はそんなに簡単に死ぬものではない。」と聞いた言葉が何度でも行って爆弾を命中させようと思ったということです。

いつも死との隣り合わせの出撃で帰ってこられたのは、空を飛ぶことが好きだったささきにとって寿命としか言いようがないとの言葉は本当なのだろうと思いました。

特攻の実像

この本を読んでいて、特攻兵は決して喜んで死にに行ったひとばかりではないことを深く思いました。

大学出の「特操」に比べて純粋な少年飛行兵などはマイルドコントロール、洗脳しやすかったとのちに言っている上官などもいたようです。

有名な『神風特別攻撃隊』という本がありますが、これはほとんどが欺瞞で、そうするよりほかなかった現状があったようです。特攻隊員を志願と言わざるを得ない状況にして特攻兵として送ったようです。

いろいろと学んでいることから教育を受けていればいるほど、自発的な志願は悩んだということです。特攻隊の遺書というのがあるようですが、これも上官の眼が通ること、家族が悲しむことを考えれば悩みなど書くことが出来ず、同じような内容になっているということです。

上官はすべて志願だとすることで、自分たちの責任は免除されることになります。

上官の目に触れなければ何を書くか。そのひとつの例が「陸軍特別特攻隊」の著者、高木敏明氏が執筆を依頼し、軍部の眼を盗んで直接遺族に届けることが出来た、上原良司氏の書簡です。

明日出撃する「振武隊」の中にいた上原のの様子があまりにも思いつめた様子なので、高木氏は「君、ちょっと何か書いてくれ」と紙と鉛筆を渡します。

慶応大学から学徒動員で特攻隊員になった22歳の上原がこの時書いた文章は、「きけわだつものこえ」の冒頭に収録されて、とても有名になりました。

上原氏は「自由な勝利は明白なことだ」「権力主義、全体主義の国家は一時的に隆盛であろうとも、必ずや敗れることは明白な事実です。我々はその心理を、今次世界大戦において見ることが出来ると思います。」と書くのです。

特攻隊のパイロットは一機械にすぎぬ、自殺者でもいうか、精神の国、日本においてのみ見られると書いたのちに「こんな精神状態で往ったなら、死んでも何にもならないかもしれません。故に最初に述べたごとく、特別攻撃隊に選ばれたことを光栄に思っている次第です」と、苦悩と思考の流れを吐露しているのです。

4章特攻の実像より

これを読んでいてくしくも、前佐川理財局長の証人喚問や柳瀬元総理秘書官の参考人招致で総理を守るために心を殺しているさまが見えてきます。

これが残忍だということを分かっていないのは戦争中の上官と同じだと思いました。それくらい特攻隊を拒むことが出来なかったのが当時の隊員であったことを私たちは知るべきだと思います。

それに背いたのが、佐々木友次であり、前川喜平氏であると思わされました。

現在は特定の人がつらい思いをしていますが、戦争にでもなったら、上司に逆らえないのが部下なので、このような現実が起きる可能性はとても大きいのです。

現在でも、世界ではそのような状況の中にある人たちがいることも忘れてはならないことです。自爆テロなどは良い例です。

いま日本は特攻隊の心を美しいと言う流れになっています。現実に目を向けて「美しい日本」などと言って、現実に起きたことに目を背けていては、大変なことになりそうです。

現に道徳教育を制度化して、押しつけの道徳教育が行われ始めているのが現実です。子供には自分で考える力を付けることが大切だと思っている私は押し付け教育に違和感を覚えています。


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