『中央銀行は持ちこたえられるか』河村小百合著ー忍び寄る「経済敗戦」の足音
著者は京都大学法学部卒業後、日本銀行を経て、日本総合調査部上席主任研究員です。 2016年11月発行なので、現在より6年以上前に書かれたものですが、現在の日本の金融状態はもっとむごい物になっています。 年々政府の債務残高は増え続け、デフレと言われていたのが、賃金が上がらず、物価だけ上昇する状態になっています。 ここに書かれていることは、安倍政権の「デフレ脱却」「2パーセントの物価目標」達成を、日本銀行共有する目標として掲げ、「アベノミクス」と言われる政策運営を行ってきたことに端を発します。 『中央銀行は持 ...
『私たちが孤児だったころ』カズオ・イシグロ著ー入江真佐子訳
イギリスでは2000年4月に発売、発売と同時にベストセラーになり、何週間にもわたりベストセラーが続いた作品のようです。 探偵小悦の黄金期というのがあり、この小説も探偵小説として扱われたということですです。 著者の長編小説としては5作目で、それまでに権威ある賞を立て続けにとっていて、当時のイギリスを代表する作家として知られていました。 それ以前の『女たちの遠い夏』、ブッカ賞ー賞をとった『日の名残リ』などは読んでいますが、それとは少し異なった小説で興味深く読むことが出来ました。 『私たちが孤児だったころ』のあ ...
『社会という荒野を生きる』宮台真司著ーニュースの社会学
首都大学東京教授で社会学者である宮台真司さんが、TBSラジオ『荒川強啓ディ。キャッチ!』の金曜コメンテーターになった1995年5月7日から20年半の間の放送を文字起こしするというかたちでできあがった本と言うことのようです。 その直前に地下鉄サリン事件があり、その後東日本大震災、そしてコンピュータ全盛期となり、社会の中では様々な事件が起きています。 わたしもそんな時代を生きてきたわけですが、読みながら改めて振り返ってみると、当時のことが思い出されると共に、社会がかなりの勢いで変わってきたのだと考えさせられま ...
『茶色の朝』物語:フランク・パヴロフー多くの日本人に読んでほしい
フランスの政治を動かしたベストセラー寓話。 日本オリジナル編集版で絵:ヴィンセント・ギャロ、メッセージ:高橋哲哉、訳:藤本一勇 2003年12月8日に第1刷発行で、この本は2021年8月10日第29刷発行となっています。 ヴィンセント・ギャロの素敵な絵は日本語版のために書いたということです。 メッセージを入れても47ページ、本文は絵本のような文章で、29ページしかありません。 しかしその短い文章の中身は全体主義にと向かいかねない政治を動かした言葉がさりげないかたちで息づいています。 『茶色の朝』フランク・ ...
『女のいない男たち』村上春樹著ー短篇集
2014年4月発売の村上春樹の短編集です。著者の作品には珍しく、6篇の作品が同時期に書かれたと言うことが前書きに書いてあります。 村上春樹の本を読むのは久しぶりになりますが、読んで見て村上春樹らしい作品集だと思いましたが、読みやすくすんなり分かる感じは長編集とは違って趣がありました。 前から読もうと思いながら、購入しないで8年近くも過ぎてしまいました。 『女のいない男たち』のあらすじと感想 表題の 『女のいない男たち』 は最期に掲載されているが、『ドライブ・マイカー』、『イエスタディー』、『独立器官』、『 ...
『あちらにいる鬼』井上荒野著
瀬戸内寂聴が99歳で2021年11月9日亡くなりました。 瀬戸内寂聴を語るとき、その背後の男性は生涯を通して見え隠れします。 幼い娘を婚家において若い男性と逃げたことから瀬戸内晴美の小説家としての人生は始まり、それを背負って生きてきた小説家という位置をいつもわたしは感じていました。 この小説は、瀬戸内寂聴が、愛した井上光晴、その妻(作者にとっては母)との関係を娘である、井上荒野が小説というかたちをとって書いた物です。 したがって、作者の創作であるという事実の上で読むべきだと思います。 『あちらにいる鬼』の ...
『安倍晋三と菅直人』非常時態のリーダーシップー尾中香麻里著
毎日新聞社に入社し、野党や国会を中心に取材していた著者が、同部副部長として東日本大震災と福島第一原発事故における菅直人政権を取材。 その後、2019年に退社し、47NWS、週刊金曜日、に記事を執筆しているしている尾中香麻里氏が、首相として 東日本大震災と福島第一原発事故に対応した菅直人首相とコロナ禍の対応にあたった安倍首相の対応を比較して書いています。 どちらも未曾有の出来事であり、多くの死者を出したことには違いがありませんが、慣れない対応ながら、菅直人官邸とその周りの人たちの本気度を詳細に書いています。 ...
新型コロナ危機の中、回転性めまいを繰返し2ヶ月以上眠れなり、快復するまで
これが、メイラックスの離脱症状だったことは知るよしもなく、つぎの年に知ることになりました。 メニエール病、突発性難聴後の耳鳴りと強いめまいを経験して、その後朝起きられないような回転性めまいは何度も経験していましたが、今回は眠れなくなってから体調不良により、起きているときに何の前触れもなく起きるめまいが2ヶ月以上続き不安感が増しました。 6月26日に2回目のコロナワクチンを受け、頭痛や腕が痛く体が痛いのが1週間近く続いたあと7月に入り急に暑くなったことから体調不良が続きました。 そんな中、眠れなくなって、体 ...
『クララとお日さま』カズオ・イシグロ著ーノーベル文学書 受賞第一作
カズオ・イシグロ氏の作品はノーベル賞を受賞した後から読み始めています。 最初に読んだのが、『日の名残り』であり、『私を離さないで』、『遠い山なみの光』と読んでいますが、それぞれに素晴らしい作品でありながらテーマーがかなり違っています。 いずれも土屋政夫訳ですが原文を読めない私には、和訳で読むことしか出来ませんが、両親が日本人であり、4歳の時にイギリスに渡ったという作家は、どこか日本人とは違った感性を持っているのだろうとこれらの作品から感じました。 今回読んだ、AFが主人公の作品は『クララとお日さま』とても ...
『国対委員長』辻元清美著ー官邸から立法府を守れ
立憲民主党立ち上げから、国対委員長として活躍した辻本清美氏がその内幕をわかりやすく書いてくれていて、国会がどのように動くのかが素人でもわかり、政治に興味を持つ者にとって興味深い本です。 私は森友問題で、国会が大きく揺れ始めたころから、予算委委員会を見ることが多くなり、政治に興味を抱いていたので、その頃の国会の内幕がわかり、国対委員長の辻元清美氏の活躍をかなり知ることができました。 『国対委員長』あらすじと感想 2017年10月に安倍総理が突然に衆議院議員を解散総選挙になったとき、それまでの民進党は参議院議 ...
『日没』桐野夏生著ー表現の不自由の近未来を描く
桐野夏生氏の作品は初めて読みました。 名前は知っていましたが、何故か読む機会がなく、女性初の日本ペンクラブの会長に選ばれたという、不純な気持ちで『日没』を購入しました。 『文学』に2016年、『世界』に2017年、2020年3月号に掲載された原稿を元に加筆・修正を加えたものと言うことです。 『日没』のあらすじと感想 「表現の不自由」の近未来を描くと書いてあるように、今でも怖いことを沢山見ている中で、本当にここに書かれているような時代が来たら、私たちはどのような生き方をすれば良いのだろうと感じてしまいました ...
『心』 姜 尚中著
著者、姜 尚中は政治学が専門の大学教授なので、小説家が書いた本とはどこか趣が異なっていると思いながら読みました。 初出は、2011年で東日本大震災があった年から書かれたものを大幅に、加筆・修正したものを、2013年に出版したようです。 『心』 あらすじと感想 姜 尚中氏がどのような経歴を持っているのかも知らないまま、著書が書かれたものを初めて読んだので、かなり素直に読むことが出来ました。 「心」と言う題名もさほど気にとめたわけでもなく読み進めましたが、漱石の「こころ」とは経緯は異なっているものの、友人と同 ...
『私は親に殺された』小石川真美著
幼少期からの両親による言葉の暴力を受け、親の顔色をうかがいながら勉強に精を出し、東大医学部に合格するも「境界性人格障害」「うつ病」になり、ベンゾジアゼピン系安定剤による薬物中毒に陥りますが強靱な精神力で医学部を卒業医師として働くことになります。 しかし、 「境界性人格障害」 のため友人関係で失敗することも多く、医師を続けながらも精神科入院8回、自殺未遂30回という壮絶な事件を繰返し、38歳で信頼できる精神科の医師と巡り会い、薬を止めることに成功したようです。 『私は親に殺された』あらすじと感想 自分が幼少 ...
『下流の宴』林真理子著
林真理子氏の小説は、『白蓮れんれん』に次いで2作目です。 『白蓮れんれん』は「心の花」の歌人柳原白蓮のハランの人生を書いていたので興味深く読みました。 柳原白蓮については、菊池寛の『真珠夫人』も柳原白蓮をモデルにしたと言うことから、違った目線から書いているのを興味深く読みました。 創作作品は初めて読むことになり、著名な直木賞作家の小説を読んでみたいと思い古い本を購入しました。 『下流の宴』のあらすじと感想 初めて読む本だと思っていたのですが、読み始めてあらすじを知っていることに気が付きました。 2010年 ...
『かたちだけの愛』平野啓一郎著
2010年12月発行なので、発行から10年以上の月日が過ぎています。 平野啓一郎氏の読者となって数年しか経っていないので、最新作を読んだり、初期作品を読んだりと行ったり来たりの読書を楽しんでいます。 著者の作品の中では読みやすい作品になるのではないかと思いましたが、最新作『本心』、『マチネの終わりに』などの作品に繋がる愛の小説だと思いました。 『かたちだけの愛』のあらすじと感想 『かたちだけの愛』は、恋愛小説なのでしょうが読者も作者も、ありきたりの題材であるだけにどのように読むかはかなり難しいと思いました ...
『いのちの停車場』南杏子著
2020年5月に幻冬舎から刊行、2021年4月に幻冬舎文庫として刊行されたものを購入して読みました。 吉永小百合主演で映画化もされており、多くの人に読まれている作品のようです。 作者は、日本女子大学卒後、出版社勤務を経て、東海大学医学部に学士編入し、卒業後、現在も都内の大学病院老年内科などで勤務しているようです。 医者としての立場と知識から、在宅介護の現場を書いていますが、知識が多いだけに読者の胸に迫ってくるものがあります。 『いのちの停車場』のあらすじと感想 大学病院の救命救急センターから生まれ故郷に帰 ...
『本の読み方』平野啓一郎著ースロー・リーデングの実践
本書は2006年PHP新書として刊行されたもののようで、現在も読まれ続けていることから、より多くの読者に読んでほしいと出版社からの声がかかり、2019年にPHP文庫として、加筆・修正して再編集されたものです。 私は著者にこのような著書があることを初めて知り、購入して読んで見ました。 本を読むことは好きでしたが、速読をしようとかスロー・リーデングとか考えもしないで、本を読んできたので、どのようなことが書いてあるのか興味を持って読むことにした一冊です。 『本の読み方』についての内容と感想 スロー・リーデングを ...
『枝野ビジョン』枝野幸男著ー支え合う日本
立憲民衆党の党首枝代表がめざす社会の未来像を書いています。 政権交代を視野に入れながらも、何をしたいのか分からないとよく言われますが、ここに書いてあるのは政権交代後どのような社会を作っていくのかその覚悟を書いています。 2017年民主党が割れて、一人で立ち上げたのが立憲民主党です。私はもちろん応援しましたが多くの賛同者をえて、野党第一党になり、その後希望の党に行った民進党の仲間が、国民民主党となり、無所属から立候補した仲間と2020年9月に合流、150人の議員からなる新たな立憲民主党を結成、2021年の秋 ...