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『日没』桐野夏生著ー表現の不自由の近未来を描く

桐野夏生氏の作品は初めて読みました。

名前は知っていましたが、何故か読む機会がなく、女性初の日本ペンクラブの会長に選ばれたという、不純な気持ちで『日没』を購入しました。

『文学』に2016年、『世界』に2017年、2020年3月号に掲載された原稿を元に加筆・修正を加えたものと言うことです。

『日没』のあらすじと感想

「表現の不自由」の近未来を描くと書いてあるように、今でも怖いことを沢山見ている中で、本当にここに書かれているような時代が来たら、私たちはどのような生き方をすれば良いのだろうと感じてしまいました。

それには私たちひとりひとりが、少しでも力を合わせて、このような時代が来ることがないように政治家たちを見つめていかなければならないと、真剣に思いました。

『日没』のあらすじ

ペンネーム「マッツ夢井」のところに、総務省文化局・文化文芸倫理向上委員会とと言うところより召喚状が届きました。

場所は茨城県との境界に位置する、千葉県の海辺の町で、講習のため宿泊も必要であること、その駅には中央線と特急で3時間程度で行けそうだと思っていたところ、「 総務省文化局・文化文芸倫理向上委員会の者」と名乗る西森という男から、駅まで迎えに来るという電話がありました。

猫のコンブが行方不明になっていたことから手製のビラを作って貼って次の日に出かけました。駅まで歩いていると電話があり、猫がゴミ捨て場に死んでいるのを見たという電話がありました。

待ち合わせの駅に着くと分倫の西森が迎えに来ていて、療養所までは1時間位かかると言います。昔、療養所があった場所なので、療養所と呼んでいると言います。

着いたのは、コンクリートに囲まれてその上に有刺鉄線が張られている場所でした。

事務室のドアが開いて、出てきたのは西森と同じように日に焼けて体育教師のような所長の多田という男です。

食堂や売店、断崖絶壁に囲まれているという崖を説明してくれて、 B98という番号で呼ばれることになり、 粗末な部屋に案内されました。スマホで弟に連絡しようとしたが、圏外で使うこともできませんでした。

所長室に呼ばれ、「作家には社会に適応した作品を書いてほしい」と言われます。国家権力により、風俗を乱す小説執筆をやめるように「療養」を促されるのです。

今の国家権力を見ていると、本当にこのような理不尽なことが起きるのではないかとさえ思わされます。例えば、日本学術会議の会員に推薦されながら、任命を拒否された問題などを思い出さざるを得ませんでした。

マッツ夢井は、意に沿わぬ診療所の対応に腹を立てていたが、いろいろと文句を言うと加点されていくようで、ここでの生活が長くなると言われましたが、反発をせずにはいられない気持ちで、何点のもの加算がつきました。

食事は粗末で少なく、なにかあったときには昼食抜きの時もあり、ガツガツ食べるようになっていきます。

スマホの電源が20%を切ってしまったので、書き損じの原稿用紙に電話番号を書き、枕の仲に入れようと思ったとき、原稿用紙の細かくたたんだものを見つけ読んで見るとこの部屋で過ごした人の遺書のようで、ここから絶対出られないこと、ここにいる職員についての情報などが書かれていました。

精神科の医師も来るようで、その医師は 相馬 と言う脳の専門家で、所長の多田とは仲が悪く、作家たちの脳を調べたがっていると書いてありました。

そのほかの人たちについても書いてあり、最期に「菅生静」と署名がありました。

弟から最近作家が良くと効いたが「菅生静」ここに来て二百十日目に崖から飛び降りたと言うことが分かりました。

作文の課題が出され、「母のカレーライス」という模範の作文を書いて、多田に褒められましたが、いつのまにか、それまでのような文体の小説になり、問題視されます。政権批判の文章を書いていたことも問題視されているようです。

精神科医の相馬に初めて紹介された日、何故このようなところに監禁されるのかと問うと「現行の法律では、有害図書と認定されたら更生が必要で、更生のお手伝いをしているだけです」と言います。

「菅生静」 の遺書に書いてあったことを頭から離れず、それぞれの人たちに言いたい放題を言った後男たちに抑えられて、何かが腕に刺さったと気が付いた後は気を失っていて、気が付いたとき気持ちが悪く吐きたい気分でした。

体を横にしてくれて、背中をさすってくれたのは、聞き覚えのない優しい女性の声でした。しかしすぐに眠ってしまいいろいろな夢を見ました。おむつも取り替えてくれているようでした。

幾日が過ぎたか分からなかったがある日、光が入ってきて目を開けることができ、風車の音も聞こえてきました。

優しい声が聞こえてきて、看護師の三上ですと名乗りました。そして、動くこともできなくなった私は、赤子のようにすべてを三上にやってもらうことになりました。

声が出るようになったとき、三上に抗議すると、統合失調症の疑いがあると聞いていますと三上から言われます。

やっと戻った意識で注射器が抜けると、押さえつけられ点滴をされて気を失い、気が付いたときは我慢できないような頭痛がしていました。それを訴えると相馬がきて錠剤を飲まされ、錠剤が増えると悪夢を見るようになりました。

そして、弟がサインしたという入院同意書を見せられ、地下二階の部屋に移されました。

地下に移されてからは、服薬だけになり、食事も出き、トイレも使うことができるようになりました。

薬を飲んで、用を足すと眠り、時間が来ると三上が食事を運んでくると言う日課になり、越智が助けてくれるといい、三上が少し優しくなったと思ったある日、所長の田多と精神科の相馬がやってきて、反抗すると地下二階に連れて行かれ拘束衣を付けらてしまいます。

越智と三上は更生してこの療養所で働いていると言います。又、最期に自転車に乗せてくれた成田も更生して働いているようです。更生して外に出れば一生監視が付くし、療養所で働くしか道はないようでした。

そんな寂しさのなか、 越智 と三上が逃がしてくれると拘束衣を脱いでくれ、歩けないマッツを支えて、玄関を出て遺書の同意書を書かされて、成田の自転車のに台に乗せられて着いたところは崖の先端で、飛び降りることを促されるのです。

『日没』 の感想

言論の自由が奪われよとしていることを、なんとなく感じさせられている現在、小説家たちが次々と自殺をしているという噂が入る中、人目の付かない場所に、作者を閉じ込めて自殺を促す文倫という国家権力の恐ろしさは、戦争に入ろうとしていた赤狩り以上の恐ろしさを感じさせられました。

日本政府のすることを見ていると、何故かこんなことはないだろうという否定の気持ちを持つこともできず、もしこのようなことが本当に起こるようになったときの恐ろしさを身に感じてしまいます。

国会の答弁の一貫性のなさと、メディアを動かしていて、今でさえ私たちは本当のことを知ることができなくなっています。

その上、検察の人事を握り、政権のすることに口出しさえできなくなっている現状が、このまま続けばまさに言論の不自由にと一目散に行ってしまいかねません。

私たち国民が、メディアで見えない、国会の質疑などをしっかり見て、今日本に何が起きているのかを知らない限り、今の現状を止める手立てがないと感じてしまいます。

このような時代に、書かれた『日没」は近未来を感じながら、多くの人に読んでほしいと思いました。

こんな時代に女性初の日本ペンクラブの会長に選ばれた、「桐野夏生」氏は最高の人選だったのだろうと思いました。

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