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『本心』平野啓一郎著

発売日を待って購入した本は、私には数少ないものになります。

公式サイトに登録していたため、発売前から半分以上を読ませていただき、続きを読みたい一心で購入したという経緯があります。

それだけ私には魅力的な作品だと思いました。

『本心』のあらすじと感想

このような時代に生きることに前向きになれるような着地点を探していたという著者は、「最愛の人の他者性」という言葉にたどり着いたと書いています。

この小説は二千四十年代という未来を描いた小説です。

著者は最近の小説では分身や他者性について書くことが多いようで、母のVFを作り、母が自由死を望んだ本心を知りたいと思うのでした。

しかし、どんなに身近な人間でもその人のすべてを知ることなどできないとの思いに至り、母のVFから離れて自分の求める生き方を前向きに選び、実行していこうとするのです。

そのような意味で、『本心』からは、どんなに深く愛していても、その心まではわかり得ないという結論に至るのだろうと思いました。

『本心』のあらすじ

二十九歳になっている僕は、東日本大震災の後に生まれたという設定になっています。六月一日生まれだったことから朔也と名づけられ石川朔也と言います。

二十年後は、自由死が認められ、VFが合法化された設定になっていて、僕に看取られながらの自由死を望んだ母に反対していたが、事故で母を失ってしまいます。

仲のよい親子で、母親思いのおとなしく心の優しい子と思われていた僕は、半年間悩んだ末に母が残したくれたお金でVFを作り、自由死を選んだ母の本心を探ろうとにします。

資料が多いほど人物に近いVFができ、話しかけることによりアップデイトしていき、本物の母に近づいて行くと説明されました。

僕の仕事は、リアルアバターであり、依頼主がへッドセット越しに自分が体験しているように注文の場所まで行って、注文主の言うように行動する仕事をしています。

母のVFができてきて、母が望んでいた自由死について聞いてみたが、そんなこと知らないと言われ、自由死の認可をくれたという医師に会うことにしたのですが、母はその医師に影響を受けたのではなく、子供にお金を残すことを考えて、自由死を選んだと言われました。

母は、旅館で下働きをしていた職場のことはあまり話さなかったが、一緒に働いていた三好彩花さんとはかなり親しくしていたようで、よく話していました。

三好に連絡し、仮想空間の高級ホテルのプールサイトで猫のアバターになって出てきた三好と話をします。

三好は、母が旅館を辞めさせられて、その後の生活を心配して自由死を考えていたと言います。

父のことも聞いたが、母が父だと教えられてた写真の人は、父親ではないだろうと言い、母が愛読していた作家の藤原亮治と会っていたようだと教えてくれます。

高校2年の時に、同級生の少女が売春をしたと言うことで退学処分を受けたのに、抗議をしていたグループに僕も加わったが、みんなが止めたあとも一人で座り込みをしたため、母が学校に呼ばれたことがありました。

その後高校を中退しますが、その時母が泣いているのを初めて見ました。

それを母から聞いていたようで、三好は「売春をしていて退学になったった子をかばって退学になったんだって、優しいねと」言い、「私もその子と同じ仕事をしていたの」と言います。

三好ともそれから何度も連絡を取り合っていたが、台風で住んでいたアパート水浸しになってしまったと言うことで、朔也は家に来ることを勧めルームメートとして暮らすことになりました。

前の財務大臣がドローンで襲撃された事件に、同じ職場で働いていた岸本が、関わっていたようで逮捕されてしまいます。少しでも豊かになるために無理な仕事をしたのかもしれません。

それを知った三好は次のように言います。

私たちのいる世界はボロボロだけど、お金持ちのいる世界は順調でしょう? あっちまで壊してしまったら、どこにも居場所がなくなるもの。結局、こっちの世界ももっと悪くなるだろうし。それはすべきではないと思う。

彼女が、この世界そのものを二分して見ていることに、違和感を覚えますが、僕は初めて会ったとき、「不公平」だと言っていたからこそ、強く共感していたのに、少し不満に思い、「僕は世の中全体がよくなってほしいです」といいます。

「そんな考えからセレブをフォローするのか」と聞くと三好もフォローしていると言います。このような考えを持つ人は、現在も沢山いるために二世議員の多い自民党の支持率が多くなるのだろうと考えました。

僕は面白半分の人のリアルアバターとして依頼を受け、メロンを買うように指図され、何件もお店を回らせてくたくたになって入ったコンビニで水を買い飲んでいると、東南アジア系らしい女性店員に「ちゃんとした日本語がしゃべれないなら国に帰れ」と言う男の声に怒りを覚え、その男の元に歩いて行き「止めろ」と怒鳴った僕に激高して彼は僕を突き飛ばされました。

その事件の後、会社から四ヶ月の業務停止を通告され、暗い顔をしていたのだろう。母は僕に「朔也、辛いことあるんじゃない? お母さんに話して。相談に乗るから」と本心を見抜いているかのように繰返すばかりになってしまいました。

僕は久しぶりに、フィディテクスの野崎に電話をすると母のVFが施設で働くと収入が得ることができるという話を聞き、施設では働くことになり、母は一週間で一万二千円も稼いでいました。

母が心配していいた原因は、朔也が下を向いて話していたことが原因だと言うことが分かりました。

その後約一週間古紙回収の仕事をしました。かなりきつい仕事でした。

古紙回収の仕事をしているとリアルアバターの登録会社から何度となく電話があり、すぐに復職してほしいと言うことでした。

何が起きたのかを教えてくれたのは母で、コンビニで起きた動画の再生回数が、百二十七万件にも及んでいて日本のみならず、世界各国の言葉で賞賛されて投げ銭が振り込まれていたのです。

その中に二百万円を振り込んでくれている人がいて、リアルアバターにも依頼してきていました。名前をクリックすると〈あのとき、もし飛べたなら〉というサイトに飛びました。

その人は小学生のころ、事故に会って下半身不随になってしまい、車椅子の生活を余儀なくされているようでした。

漫画家志望で、ヒーローものの絵を書きたいと思い、キャラクターだけを公開していたが、ある企業からそのキャラクターをアバターとして購入したいと問い合わせがあり、それを機に収入を得るためにアバター・デザイナーとして活動を始めたようです。

そのアバターは、瞬く間に評判になり、今では世界中に個客がおり、年収は五億円に達すると噂されていました。

三好にこの話をすると、驚いてイフィーの仕事を受けるのだったらあとで教えてと興奮していました。

〈あの時、もしも跳べたなら〉は四十五階建てのマンションの最上階の豪華なマンションに住んでいて、今の収入の倍の七百万で専任ののリアルアバターになってほしいと言われ、引き受けることにします。

クリスマス・イヴの夕食に招かれ、ルームシェアしている友達も連れてきたいと言うと、歓迎すると言ってくれました。

大勢の人とのパーティだと思った三好は貸衣装を借り、僕もセーターを新調したが、食事会は三人でした。

イフィーは三好さんもとても気に入ったようで、好きなアバターをプレゼントしてくれ、三好とは徐々に距離を縮めていき、愛を告白されます。

三好は十歳以上も年下のイフィーの気まぐれだと思ったようだが、いろいろ話し合い、本気だと分かったようで、イフィーのところに行くことにします。偶然あちらの世界に行くことになった三好を好きになっていたが喜んで送り出しました。

三好が迷っている間、僕は母が愛読し作家の藤原亮治にメールを送り会うことができました。

彼が教えてくれたのは、震災のボランティアで意気投合したのは女性で、二人で子供を作って育てるという計画を立て、精子提供を受けて母が産んだのが僕だと言うことです。

藤原とは、僕が生まれてからの付き合いで、八年ぐらい付き合っていたと言います。その後メールで藤原から去ったのは母の方だとと書いてきました。

そして藤原が最期に記していた次の言葉が、いつまでも僕の心から離れなかった。

「最愛の人の他者性と向き合うあなたの人間としての誠実さを、僕は信じます。」

その後、僕はコンビニで会ったティリーに日本語の勉強を勧め、その時相談に乗ってもらったNPO法人の代表にインターンとして働きたいと告げていました。

そして大学で福祉を学ぶための貯金を始め、予備校でオンラインの講座の申し込みをしました。

そして、そのことをイフィーに伝え、対等な立場で、改めて仕事をしたいと思いました。

『本心』の感想

とても読みやすい文体で書いてあるので、一気に読み進むことができる小説ですが、内容はとても深く、読者にあなたはどう思いますかと問いかけられるのを感じながら読むことになります。

全体を通しては「最愛の人の他者性」がテーマですが、当り前のことながら他人の本当の心を知ることもなく生きている現実を気づかされました。

しかし、貧富の差をどのように考えるか、自由死について、母がキャリアとしての仕事をしていたために出会いがないまま子供を産み育てたことの意味、外国人労働者の問題など、現在の社会で解決できない問題を数多く提起しています。

また少子高齢化が、ピークになるだろ四十年代に孤独な人たちがますます増え、自由死の考え方はどのようになるのだろうかとの問題も考えさせられます。

二十年後にAIは私たちの生活に、どのような影響を与えるのかも思い描くことになり、AIが、いろいろな場面で利用されるようになったとき、今よりももっと職業の選択肢は少なくなってしまうかもしれないと感じされました。

母が、旅館の下働きをしていて、辞めさせられたときに働き口が見つからなかったらと心配したように、仕事がなくて生活できないという不安もつきまとってくるのを見ると、コロナ禍の今も、同じような境遇の人が多い中で、声を上げることの少ない社会を変えていかなければという思いも、ふつふつと湧いてきます。

僕が福祉の道に進もうとしたように、このような時代だからこそ、人間が人間らしく生きるために、福祉はより大切になるのだろうと感じました。

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